役者陣の本能むき出しの演技ー配役の魅力
荒廃しきった中世の日本を舞台とした本作。黒澤は、いわば人間の奥底に眠る動物的な本能を表現するため、役者に野性味あふれる演技を要求したという。
役者の布陣は鉄壁そのもの。三船敏郎、森雅之、京マチ子、志村喬と黒澤組の常連俳優であると同時に、往年の日本映画界を代表する名優が一堂に会するサマは壮観の一言だ。
中でも特に印象的なのは、真砂役の京マチ子だろう。大映の看板女優として、官能的な肉体美を誇った京だが、本作では妖艶さの中に芯の強さを含んだ見事な演技を披露。まるで女狐のようにで金沢と多襄丸をたぶらかしている。
なお、京は、本作を皮切りに溝口健二の『雨月物語』や衣笠貞之助の『地獄門』に出演。主演作が国際映画祭でグランプリを立て続けに受賞したことから、「グランプリ女優」と言われることになる。
また、黒澤組の常連である三船敏郎も、『七人の侍』(1954)の菊千代を連想させる野性味あふれる演技を披露。特に金沢との終盤の対決シーンでは、盗賊ならではの荒々しさと人間としての滑稽さを共存させた巧みな演技を見せる。
なお、黒澤は、リハーサルの合間に三船に古いアフリカの映画を見せ、藪からライオンが顔を出しているショットがあると「多襄丸はあれだぜ」と指摘したという。
そんな中、唯一例外的なのが、金沢を演じる森雅之だ。作中では森は、一貫して人間性を失わない品位ある侍を好演。真砂や多襄丸のおどろおどろしさを一層際立たせている。