光と影のコントラストー映像の魅力
本作の撮影監督は宮川一夫。主に京都太秦や大映の時代劇映画で活躍し、溝口健二や稲垣浩、市川崑ら巨匠の作品を数多く担当した名カメラマンだ。
宮川は、本作で、「グレーのないコントラストの強い絵を撮りたい」と提案。黒澤はこれを受け、羅生門を黒色で、検非違使の庭を白色、そして森の中を白と黒で撮影するというイメージを固めたという。
森の中の撮影では、コントラストの強い映像を撮影するため、進駐軍が持っていた露出計を使用。照明が持ち込めないため、木漏れ日を8枚の鏡でリレーのように反射させて光を当てることで、強烈な光を生み出したという。
また、森の中のシーンでは、金沢を捕縛した多襄丸が真砂のもとへ走っていく場面の疾走感が印象的だが、このシーンでは、疾走感が出るように三船にカメラの周りをグルグル回るように指示。カメラから延ばしたロープを三船に縛りつけることで、カメラと等距離になるようにしたという。
なお、本作で建てられたセットは、検非違使の庭と羅生門のセットのみ。しかし、羅生門のオープンセットは、大映京都撮影所内の広場600坪に25日間を費やして建設された大掛かりなもので、高さは20メートルで、屋根の重さに柱が耐えられないため、あえて一部を破壊し、荒廃しているように見せかけたという。
また、オープニングの豪雨のシーンでは、コントラストが出るように水に墨汁が混ぜ込まれており、撮影ではポンプ車4台分の水を使用したために周辺地域が水不足になったのだとか。
そうした手の込んだ仕掛けが功を奏し、雨のシーンでは未曾有の迫力が実現されている。本作の達成は後年の『七人の侍』(1954)にも引き継がれ、驚異的な映像表現で知られるロシアの巨匠アンドレイ・タルコフスキーを驚嘆させるにまで至り、雨のシーンは“世界のクロサワ”のシンボルマークの一つとなった。