渦巻く感情を表現する「情念のボレロ」ー音楽の魅力
本作の音楽を担当したのは、早坂文雄。黒澤をはじめ、成瀬巳喜男や溝口健二など、数々の巨匠の音楽を担当してきた作曲家だ。
そんな早坂は、本作でモーリス・ラヴェルの「ボレロ」をモチーフとした音楽を作曲。冒頭の杣売りが歩いていく冒頭のシーンでは、打楽器の音を効果的に使いながら、事件に気づく杣売りの感情の高鳴りを巧みに表現している。
そして、最も印象的なのが、真砂が事件の成り行きを語るシーンのBGMだろう。本曲は、ほとんど「ボレロ」そのものといってよい旋律だが、真砂の悲しみや怨みといった渦巻く情念を巧みに表現しており、実におどろおどろしい曲に仕上がっている。
なお、黒澤は、元々クラシック好きで知られ、クラシック曲のイメージを作曲家に伝えることが多かったという。本作では、脚本を執筆中に頭の中で「ボレロ」がなっていたという理由から、「ボレロ」をモチーフに音楽を制作するよう早坂に依頼した。
しかし、早坂の楽曲があまりにも「ボレロ」そのものだったことから、ラヴェルの故郷フランスで物議を醸し、ラヴェルの楽譜の出版元からも抗議の手紙が寄せられたという。
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