主人公・高坂新左衛門と重なる山口馬木也の姿
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しかし、こうして2000年頃から時代劇で順調にキャリアを積んできた山口だったが、すぐにテレビ時代劇そのものが衰退を始めてしまう。
2003年に『暴れん坊将軍』がレギュラー放送を終え、2011年には希代のご長寿番組『水戸黄門』もついにレギュラー放送を終了。山口をはじめ、この頃に現場で育った若い時代劇俳優たちがこれから主役の座を目指していくはずのところを、現場そのものが激減してゆく。
『侍タイムスリッパー』は、このテレビ時代劇の斜陽が本格的に始まる頃、ちょうど山口が『水戸黄門』の夜叉王丸を演じていた2007年の東映京都撮影所を舞台にしている。劇中では、80年代からよく見られた娯楽時代劇をイメージした架空のテレビ時代劇『世直し侍 心配無用ノ介』が放送終了の危機にある。
高坂新左衛門は、斬られ役として演じる楽しみを覚え、時代劇の斜陽のなかで奮闘し、次第に“時代劇愛”に目覚めてゆく。
これは2000年代から現場で育った山口自身とどこか近いように思える。似ているというよりも、当時の山口が置かれていた立場を、よりわかりやすく別の形で表現したのが高坂の姿といえばいいか。あの頃の山口の隣に、ふと現れてもおかしくない高坂だ。
奇しくも山口は、この時代劇の斜陽を憂う作品で、自身初の時代劇映画の主役を務めた。しかも映画は空前の大ヒットを迎えつつある。
斬られ役となった高坂が成長してゆく姿。インディーズ発の映画が成長してゆく姿。そして映画の時代設定と同じ2000 年代に、必死で稽古をしてきた時代劇俳優・山口馬木也が20年の時を経て主役になる姿。我々は何重ものブレイクスルーを目撃しているのだ。
積み上げられてきたものが一気に日の目を見てゆくこの状況は、さすがに時代劇リサーチャーとして筆者も胸が熱くなる。