ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 低予算なのに大ヒット…映画『侍タイムスリッパー』はなぜ成功を収めたのか? 時代劇に精通するライターが魅力を考察レビュー » Page 6

低迷する時代劇に差し込んだ二筋の光

侍タイムスリッパ―

©2024 未来映画社

 高坂新左衛門は物語の最後に、切なさも滲む印象的なセリフを口にする。あれは時代劇をこよなく愛する安田淳一監督や、時代劇の現場で育ってきた山口馬木也、冨家ノリマサらの本心からの声だろう。噛みしめたいところだ。

 気になるのは、この映画を見て時代劇をとりまく現実に声を上げ始めた人々が、エミー賞までも獲得したハリウッドドラマ『SHOGUN 将軍』にはさほど触れていないことだ。

 世界のトップを獲った真田広之が育ったのも、この『侍タイムスリッパー』に登場する撮影所である。

 そこから巣立った真田は、海を渡った先で本気で時代劇文化を継承すべく、孤軍奮闘で成功させた。それがいかに偉業であるかは、別のコラムに書いたので譲りたい。

 とまれ、真田が新次元の高額予算で時代劇の継承を成功させたこと、安田監督が低予算で継承を成功させたこと、これらが2024年に同時に起こったことは興味深いし、希望の光でもある。(ちなみにどちらの作品にも、衣裳担当には東映京都撮影所の古賀博隆がいる。“侍タイ”がいかに本格的であることがわかると思う)

 しかしこれほどブレイクしているのに、安田監督は「もう時代劇はしばらくいい」と苦笑いする。それほど時代劇を作るのは大変だ。今後、かつてのように毎週新作が放送されるような未来が来るかはわからない。

 それでもこの映画で高坂の最後のセリフを噛みしめた人が多いのなら、ぜひとも熱狂をこの一時で終わらせず、時代劇という日本固有の文化を、継続的に気に掛ける人が増えてくれることを願う。

(文・Nui)

【作品概要】

監督:安田淳一
出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴、井上肇、田村ツトム、安藤彰則、庄野崎謙
配給:未来映画社
©2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.

公式サイト

1 2 3 4 5 6 7
error: Content is protected !!