人生は「ブック破り」の繰り返し
プロレスファンにとって物議を醸したのは劇中に出てくる「ブック」という言葉だ。
舞台となる全日女子プロレスでは、事前の勝敗を取り決めを「ブック」と呼び、それを反故にして勝手に決着をつけてしまうことを「ブック破り」と表現している。
あえて、この言葉を使わせてもらうと、『極悪女王』はブック破りの果てに未来を掴み取るという物語だ。
夢を追って自分を表現するためには、誰かを裏切る瞬間がある。与えられた役目をはみ出して、やりたいことをやらなきゃいけない時がくる。そんなブック破りの連続で、それぞれの人生が転がっていく。
レスラーだけではない。松本香の母・里子が「離婚する」と言いながら、いつまでも夫と別れないのも一種のブック破り。その父が生死の境から生き延びたのも、家族にとってはブック破りである。反則上等。ルールを超えたところに真実のドラマが立ちのぼるのが、プロレスの醍醐味だ。
本作のラストで実現する同期入門4選手によるシャッフルタッグマッチもブック破り。でも、ああいう瞬間に居合わせたくて、プロレスファンは会場に通い続けている。
芸能界も同様だ。不倫も、独立も、海外進出もブック破りだ。でも、そこから立ち上がり、ファイトバックして立ち向かう姿をファンは追い続けたい。
『極悪女王』の撮影を乗り越えたキャストたちは、他にはない絆が生まれたはずだ。同時に、心に「プロレス」を宿したはず。それだけでも『極悪女王』は、以前・以後で語られるターニングポイントな作品になったといえよう。
(文・灸 怜太)
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