インターネットがあぶり出す人間の深層心理ー脚本の魅力
監督の細田は、『美女と野獣』に範をとった理由について、「二重性をもった作品だから」と語っている。
『美女と野獣』に登場する野獣は、暴力性と優しさの二つの側面を併せ持っている。また、本作の主人公のすずも、幼少期に目の前で母を亡くしたトラウマから人前で声を出せなくなっている一方で、人前で歌いたいという気持ちを持ち続けている。
そんなすずが出会う竜は、仮想世界の中を荒らしまわる厄介者だ。しかし、すずは、竜の背中に負った痣から竜のオリジン(所有者)が心に深い傷を負っていることを悟る。つまりUは、表には表出しえない人間の深層心理をあぶり出す装置なのだ。
そして、終盤ですずは竜に歌を届け、彼を苦境から救うために自ら素顔を晒す。そして、自ら夜行バスに乗り現実世界の竜を助けに行く。この演出は、川の中に取り残された子供を救って命を落とした母親の描写とパラレルになっている。つまりすずは、竜との出会いを通して自己を犠牲にして他者を救った母親の気持ちを追体験するのだ。
ただ、本作の物語は、お世辞にも良くできているとは言い難い。例えば、りゅうの正体を突き止めたすずが夜行バスに飛び乗って虐待を受けるりゅうを救いに行くシーンはドラマ的な高揚感はあるもののリアリティには欠ける(現実であれば児童相談所に連絡して終わりだろう)。また、すずが一夜にしてスターダムにのし上がる描写もあまりにも出来すぎているように思える。
ただ、裏を返せば、こういった展開は「エモさ」を至上命題とするアニメーションならではの醍醐味と言えるかもしれない。細部に目をつぶれば、きっと本作は楽しめるはずだ。