「難しいほど燃えるタイプ」
撮影前に行った濃密なディスカッションについて
―――今回、満を持して映画作品でタッグを組まれたわけですね。石井監督は今回どのような経緯で本作の企画に参加されることになったのでしょうか?
石井「コギトワークスの関友彦プロデューサーと脚本家のいながききよたかさんとは、昔からの知り合い。WOWOWのドラマや脚本づくりなど、一緒に仕事をする機会もあり、かねてから、彼らの日本離れしている部分、国内規模じゃなくて、世界を見据えて企画を考え、クリエイションに励んでいる点に全面的に信頼を寄せていました。
今回のお話をいただいた時も、とても意欲的な企画で、テーマもとても面白いと思いましたし、柳さんと仕事が出来るチャンスだと思ったので、喜んで参加させていただきました」
―――今回柳さんが演じられた長女・火水子というキャラクターが企画段階からあったのでしょうか?
石井「長女であるということに加え“怒りの感情が無い”という設定はありました。“怒り”がないという設定を聞いて、面白いと思うと同時に難しいとも思ったのですが、難しいほど燃えるタイプなので。これはやりがいがあるなと思いました」
―――そこから主演を誰に任せようと思案されたと思うのですが、柳さんのお顔が真っ先に浮かんだのでしょうか?
石井「いや、もうそれしかないじゃないですか(笑)」
―――火水子のキャラクターには、柳さんのイメージも入っているのでしょうか?
石井「そうですね。柳さんはご自身で監督もやられていますよね。今回の作品は、非常に微妙な問題を描いているので、自発的にしっかりとした意見を言ってくれる方じゃないと成立しないと思いました。
もちろん、映画は共同作業ですから、それは全てのキャスト、スタッフにも言えることです。しかし、繰り返しになりますが、今回の作品は微妙な描写を多く含んでいるので、しっかりとした意見が言える方と一緒に作りたいという思いがとりわけ強くあり、柳さんは適任でした」
―――柳さんはいかがでしょうか。脚本をご覧になって、参加するにあたり、監督とどのようなディスカッションをされましたか?
柳「今回の作品は社会問題にも光を当てているわけですが、立場によって人それぞれ思うところも違いますし、それぞれ歩んできた人生が違うので、全ての人々の意見を合致させるのは難しい。今は社会全体で異なる立場の人が共存するためにどうすればいいのか話し合っている最中だと思います。
そうした現状を踏まえ、それぞれの立場の意見を脚本に反映させるためにはどうすればいいのかと私なりに考えて、お話をさせていただいたのですが、石井監督には丁寧に応答していただき、凄く有り難かったです。連絡先を知らなかったので、突然夜中にアイデアが思い浮かんでInstagramを使って連絡したこともありました。
『石井さん、これはこういうことなんじゃないでしょうか?』って。そんな突発的な私の考えも丁寧に聞いて下さり、とても嬉しかったですね。でも、真夜中に申し訳なかったです(笑)」
―――クランクイン前から濃密なやり取りをなさっていたのですね。ただ単純に役者さんに脚本を一字一句読み上げてもらうという映画の作り方ではなくて、叩き台として脚本があり、それを柳さんがどう見るか。双方向からフィードバックがあって物語が作られていったのですね。
石井「もちろん脚本のいながきさんも交えてですけどね。私としては、そういう映画の作り方が、最も望んでいることでもあります。映画に映るのは役者さんであって、私ではないので。役を演じるということはクリエイトだと信じているのです。
今回ご一緒して、改めて柳さんはしっかりとクリエイト出来る方だと思いました。今回演じた役はとても難しかったと思います。全力で試行錯誤しているのを端で見ているのは苦しかったですね。『難しいだろうな』って。こっちは言うだけなので」