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「怒りを探すと社会運動に辿り着く」
長女・火水子というキャラクターについて

写真:宮城夏子
柳英里紗 写真宮城夏子

―――序盤に、柳さん含めたレボルの3人が電動キックボードを走らせながらインターナショナルを歌うシーンがあって、意想外の取り合わせに仰天すると同時に、グッと引き込まれました。その後レボルが内側から瓦解して、火水子は別のコミュニティに入っていく。本作にはどこか日本の左翼運動の歴史が重ねられていると思いながら観ていました。

石井「脚本家は意識していると思います。その後、塩塚モエカさん演じる虹と伊澤彩織さん演じる華が『野バラ』をデュエットするのも脚本家の指定でしたが、この2曲のコントラストは私も面白いと思いました。ディスカッションを重ねたことで脚本は最初の段階からだいぶ変わってはいるのですが、重要な部分は最後までしっかり残っています」

―――興味深いのは、革命運動の中心にいる火水子が、怒りの感情を持たないということです。その点、火水子は他の人と違うのですが、観ていると、怒りに駆られている周囲の登場人物の狭間に立つ火水子に感情移入できるようになっています。他の3作品とは違う手触りがあって、その異質さも他の作品と並べて観ることで際立っていると思いました。

石井「4人の監督がそれぞれの持ち味を生かして4人の兄弟を描いているのだけど、つながりがあるのか、ないのか微妙でわからないのがとても面白い。感情の欠落がもたらす状況だけではなく、現代日本における兄弟が象徴する人間関係の在り方をシンボリックにあぶり出すようなところがあって、とても良かったです」

―――火水子は怒りの感情を持たないわけですが、苦しんでいる人間に対して『何かをしてあげたい』という気持ちは人一倍強い人だと思いました。

柳「監督とよく話したのが、活動する上で火水子が一番探しているものは“怒り”であるということでした。本作で描かれているそれぞれの運動と思想が怒りに近いものなので、それに彼女は引き付けられているのだと私は据えていて。

彼女に怒りの感情があったら、社会運動には参加しなかったと思うんですよ。彼女の一番の関心は怒りで、恐らく『怒りを探していたら社会運動に繋がってしまった』ということではないかと、私は捉えています」

―――他者に対して何かをしてあげたいっていう気持ちが人一倍強いにも関わらず、他者の根幹にある怒りだけは共有することができない。そうしたことのジレンマ、もどかしさが凄く伝わりました。

柳「ありがとうございます。石井監督とは、火水子という存在が矢面に立たされているという風に見えないようにしたいということは何度もお話させてもらいました。やっぱり女性が表に立たされているっていうのは見え方としてあまり良くないなと思って。

とはいえ、火水子が自発的に進んでいくというのもなかなか難しいところで、ただ後ろから追従しているのでもなく、積極的にもなり過ぎないという塩梅を探りながら演じました。そこは凄く考えたところですね。

でもとにかく怒りを探していて、その中で、人々の苦しみや悲しみ、色んな感情に触れ合っていくということです。怒りを探すと社会運動に辿り着くっていうのは、凄い発想だなと思いました」

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