現代の若者が学ぶ教科書にない戦争
またこの映画は、ヒロインである百合の成長も描いている。
現代では思春期を拗らせてイライラし、母親の思いを受け止めることなく、素直になれない百合。
しかし、未来ある若者たちがさまざまな我慢を強いられ、かつ、命を国に差し出している姿を見て、未来を選べる自由を手にしている自分がいかに幸せかを知るのだ。
筆者は、成田洋一監督の作品を初めて本作で拝見したが、戦時中の話のため多少の説明が入る予想をしていたが、説明セリフはほぼなく人物描写に丁寧さとメリハリがあり、登場人物の気持ちに寄り添ったセリフと演出に脱帽させられた。
また、戦争の恐ろしさを映像で激しく見せていないため、百合が「日本は戦争に負ける!」と強く訴えるシーンにも演出にパンチを感じた。
ただ、百合に比べると彰のキャラクター像は少し弱い。
優しくて好青年で百合のことを想っていることは確かだが、2人の間に距離があった。もう少しラブラブなシーンがあっても良かったのではないだろうか。特攻隊員としての使命があるから永遠に一緒にはいられないことを考えて距離をとる……という関係を描いていたのかもしれない。
彰が生きる時代は、今と恋愛の形が違うとも言えるだろう。しかし、映画だから、もう少しロマンチックなシーンを入れても良かったんじゃないだろうか。
あまりにプラトニックすぎて愛し合う男女が戦争に引き裂かれる悲劇が薄くなっていたように感じる。