闇の中の顔に浮かぶ社会の逡巡
障がい者をめぐるこういったジレンマは、本作全体を通してかなり直接的に描出されている。
出色は、重度障がい者施設で働く小説家の堂島洋子(宮沢りえ)と同僚の「さとくん」(磯村勇斗)との対話のシーンだろう。
さとくんの働く様子に異変を感じ取った洋子は、彼に「今何考えてるの?」と問いかける。
すると彼は、ケロッとした顔で、障がい者を殺そうと思っている旨を伝える。これに対して、洋子は、「私はそんなの認めない」と涙を流しながら頑なに否定する。
しかし、ここでさとくんは、高齢の洋子が、障がいを持った赤ちゃんが生まれる懸念から、妊娠中で中絶を検討している件を持ち出し反論する。
ここから、唐突にさとくんの顔が洋子の顔に変わり、涙を流す洋子に「障がい者を殺すなというのはキレイゴトではないか」と語りかける。
闇の中でぼんやりと浮かぶ洋子の顔は、事件を巡る社会の逡巡そのものに思える。
このシーンでは、疲れ切った面持ちの洋子に対し、変わらないさとくんの顔が際立つ。
これは、彼にとって障がい者の殺害があくまで「普段の業務の一環」であることを表している。その証拠に、「ナチスの優生思想の影響は受けているの?」と問われた時、彼はこう答えている。
―いや、あいつらはダメです。人殺しですから、と。