キャストとスタッフの比類なき覚悟と
プロデューサー河村光庸の存在
とはいえ、キャスト陣は本当に素晴らしい。
まずは、洋子役の宮沢りえ。演技についてはもはや言うまでもないが、本作では恐らくほぼノーメイクで臨んでおり、彼女の顔のシワが本作に深みをプラスしている。
また、陽子役の二階堂ふみもほぼノーメイクで出演しており、奥行きのある演技を見せている。
昌平役のオダギリジョーも、傷心の洋子を慰めるために明るく振る舞いながらも内心は怒りと悲しみを湛えているという難しい演技を、唇の動きなどわずかな顔の変化で表現している。
そして注目は、さとくん役の磯村勇斗だろう。洋子に殺人の計画を打ち明けるシーンでは、平板な表情の中に微かに怒りや悲しみを滲ませており、説得力のある演技で魅せる。
なお、本作のエンドロールには、プロデューサーとして2022年に死去した河村光庸の名前がクレジットされている。『新聞記者』(2019年)や『ヤクザと家族 The Family』(2021年)など数々の話題作をプロデュースしてきた河村氏。辺見庸の小説を原作とする本作は、彼の肝いりの企画だった。
監督を務めた石井は、そんな彼の思いに共鳴し、不退転の覚悟で制作に臨んだという。
また、洋子役の宮沢りえは、撮影中の河村の突然の死に混乱したものの、「河村さんの魂を受け継いで作品にしたいという熱気に背中を押され続け、演じ切ることができました」と記者会見で語っている。
本作は、決して万人受けするものではなく、先に述べた通り疑問点も多々ある。
とはいえ、まずは本作のような作品が国内で作られたということに、私たちは拍手を送るべきだろう。
(文・司馬宙)
【作品情報】
原作:辺見庸
監督・脚本:石井裕也
音楽:柴崎憲治
出演:宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子、高畑淳子、二階堂ふみ、オダギリジョー
制作プロダクション:スターサンズ
配給:スターサンズ
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