ひとりぼっちじゃない世界の手触りー脚本の魅力
本作の脚本の魅力は、伏線の見事さにある。
例えば、「宮田武」の章では、神田が宮田をいきなりレストランに誘い、どうでもいいとりとめのない話を交わす。そして、トイレに立ったかと思えば、そのまま忽然と姿を消してしまう。その後、「神田勇介」の章に突入すると、神田のこの不可解な行動は、ヤクザから逃げるための策だったことが判明する。
視点が変わることで、世界がめくるめく変わっていくような感覚。私たちが初めて人と出会った時に覚えるような、そんな感動に満ち溢れているのだ。
ここで注目したいのが、「狂言回し」でもある桑田のシーンだ。冒頭、婚約者に振られ、家を追い出された真紀は、公園のベンチでへたり込み、途方に暮れながら、「知らない星にひとりぼっちでいるみたいだ」とぼやく。
しかし、真紀はその後、レストランで宮田に出会って宮田の家に転がり込み、そこで倉田が持ち込んだ大金をせしめる。ここで彼女ははじめて自分がひとりぼっちではなかったこと、つまり、見知らぬ誰かによって自分が救われたことを自覚するのだ。
「ひとりぼっちじゃない」という真紀の言葉は、真紀のかなりどす黒い動機から出た言葉だが、鑑賞者である私たちの心の代弁でもある。