“世界のキタノ”による新感覚時代劇ー演出の魅力
本作は、2003年公開の北野武監督作品。主人公である市役のビートたけしのほか、浅野忠信、ガダルカナル・タカ、大楠道代、柄本明らが出演している。
北野映画初の時代劇である本作は、北野映画では最多となる観客動員数200万人を記録。さらに、ヴェネツィア国際映画祭での銀獅子賞(監督賞)をはじめ国内外で数々の賞を獲得し、「世界のキタノ」の名声を高めた作品としても知られている。
本作の最大のポイントは、なんといっても「座頭市」だろう。往年の名優、勝新太郎が、子母澤寛の歴史小説からイメージを膨らませていったこの盲目の侠客は、殺陣の凄まじさも相まって勝以外には到底演じられなかった。
北野は、そんな勝の「専売特許」を見事に現代風にアレンジ。バサバサと切り捨てる現代的な殺陣と金髪の出立ちで、従来にはない全く新しい座頭市像を生み出した。
ちなみに、本作の企画には、とある人物の存在が大きく関わっている。それは、浅草のストリップ劇場、ロック座の伝説的なオーナーとして知られる斎藤智恵子だ。勝新太郎の借金の債権者としても知られる斎藤は、かねてより親交があった北野に座頭市のリメイクを依頼。当初は断っていた北野だったが、再三のお願いにとうとう折れ、本作の制作に至ったという(なお、当初は監督の候補として三池崇史が挙がっていたとのこと)。
なお、本作ののち、座頭市「風」のキャラクターを主人公にした映画が多く制作されるようになり、こるまで綾瀬はるか主演の『ICHI』(2008年)や香取慎吾主演の『座頭市 THE LAST』(2010年)などが制作されている。しかし、これらの作品が勝版や北野版ほどの強度を保っているかは甚だ疑問だ。