随所に散りばめられた「フリ」「オチ」の構造ー脚本の魅力
本作の脚本は、お笑い芸人の北野らしく、明快な「フリ」(展開の提示)と「オチ」(展開の裏切り)の連続で成り立っている。
細かいところでは、本作のコメディリリーフである新吉のコントめいたやり取りが挙げられるだろう。例えば、市が賭場の胴師を皆殺しにし、新吉とともに逃げるように帰路につくシーンでは、座頭市に足元に気をつけるよう注意した直後、自分がコケてしまう。なんともベタな展開だが、北野らしい綺麗な「フリ」「オチ」になっている。
この「フリ」「オチ」の構造は、本作最大の見せ場である服部との一騎打ちのシーンでも使われている。このシーンでは、刀を普段と同じように逆手に握った市に対し、自身も刀を逆手に握ることで、先手を打って市を斬り伏せようと企む。しかし、服部の計算を読んだ市が、直前で順手に持ち変え、一気に服部を切り伏せる。
ちなみに、この一騎打ちのシーンは、黒澤明の『椿三十郎』(1962年)の伝説的な決闘シーンのオマージュだろう。このシーンでは、三船敏郎演じる椿三十郎が、仲代達矢演じる室戸半兵衛を逆手抜刀で切り伏せる。本作のシーンには、『椿三十郎』ほどの緊迫感はないものの、北野ならではの機知に富んだシーンになっている。
また、ヤクザの取り立てに低姿勢だった酒場の親父が実は黒幕だったという展開も、見事な「フリ「オチ」になっている。しかも、本作の場合は「作中で実は一番弱そうなヤツ」が最大の黒幕であり、時代劇にありそうな定石をしっかりと踏まえつつも、北野らしい「ずらし」が取り入れられている。
そして、極め付けは、ラストシーンだろう。黒幕のもとを訪れた座頭市は、なんとカッと目を見開き、実は「目明き」であったことを明かす。「座頭市=めくら」というイメージがある鑑賞者にはおそらく衝撃的なシーンだろう。つまり北野は、座頭市そのものを「フリ」として使うことで、オリジナリティあふれる座頭市を生み出したのだ。