不気味さを煽る3つの既成楽曲〜音楽の魅力
本作の音楽を手掛けているのはハワード・ショア。1980年代にデヴィッド・クローネンバーグの盟友として『スキャナーズ』『ザ・フライ』などのサウンドトラックを担当。『羊たちの沈黙』や『ザ・セル』などのサイコサスペンスの音楽も数多く手掛けている。
ハワードは本作のBGMに機械音などのインダストリアルノイズを多用。とりわけ中盤のミルズがジョン・ドウを追いかけるシーンや、ラストのミルズがジョン・ドウを射殺するシーンではミニマルな曲調と引っ掻くような不協和音により、観客の不安を存分にかき立てる。
なお、本作では、ハワードのオリジナルスコアに加えて3つの規制楽曲が効果的に用いられている。順番に紹介していこう。
1つ目は、オープニングに流れるナイン・インチ・ネイルズの『Closer』。この曲はアルバムに収録された歌モノではなくシングルに収録されたリミックスバージョンで、インダストリアルノイズと不気味なシンセサイザーの音色がスタイリッシュな映像にぴったり当てはまっている。なお、この音楽はインストゥルメンタルだが、最後に1節だけトレント・レズナーの声が引用されている。
―You get me closer to God(お前たちが私を神に近づける)
この言葉は、オープニング映像に映っているジョン・ドウの思想ともリンクしている。なんとも心憎い演出である。
2つ目は、サマセットが図書館を訪れるシーンで、警備員がレコードから流すバッハの『G線上のアリア』。このシーンでは、図書館で本を読み漁るサムセットを軸に自宅で被害者の写真に目を通すミルズ、そしてそんなミルズを見つめるトレイシーのショットが収められるが、荘厳かつ美麗ながらどこか狂気をはらんだこの曲が、観客に不吉な予感を感じさせる。
3つ目は、エンディングで流れるデヴィッド・ボウイの『Hearts Filthy Lesson』。本作は、1995年発売のアルバム『アウトサイド』の収録曲で、不気味なインダストリアルノイズが本作のテイストと絶妙にマッチしている。
なお、このアルバムはボウイ自身によって書かれた『ネイサン・アドラーの日記』なる小説をモチーフとしている。この小説は猟奇殺人をモチーフとした問題作であり、このアルバムのことを聞きつけたフィンチャーは、わざわざボウイに連絡を取り、楽曲の使用の許諾を得たという。『Hearts Filthy Lesson(心の汚いレッスン)』―。
本曲は、汚物と暴力にまみれた本作の世界観と奇跡的にリンクしている。
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