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映画『コンパートメント No.6』は面白い? 忖度なしガチレビュー。相性最悪男女のロードムービー【あらすじ 考察 解説】

text by 寺島武志

カンヌ国際映画祭でグランプリ獲得を始めとし、ゴールデングローブ賞にノミネートするなど、世界中で17冠の快挙を達成した映画『コンパートメント No.6』が2月10日より公開される。相反する2人の男女が寝台列車での旅を通して心が変化していくロードムービー。期待値高めの本作のレビューを紹介する。(文・寺島武志)

舞台は寝台列車という“密室”
相性最悪な2人が織りなすロードムービー

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

例えば新幹線で、隣に酔っぱらったオジサン集団、あるいは、おしゃべりが止まらないオバサン集団が乗り合わせてきたら、気分は最悪だろう。しかも、それが長距離フライトの飛行機だったらなおさらだ。

本作は、寝台列車の客室という“密室”で、運悪く迷惑極まりない男と乗り合わせてしまった女性が主人公だ。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

時は1990年代のロシア・モスクワ。この時代、ロシア国内は混沌としていた。1991年のクーデター失敗に続くソ連崩壊、そして民主主義への扉を開いた1993年の新憲法の採択、国有資産の私有化、チェチェン紛争、ルーブルの大暴落と超インフレ…これらの事件が次から次に起こった。

ロシア人にとって、この時代は「激動の90年代」とされている。貧富の差が広がり、新興財閥・オリガルヒとよばれる新たな富裕層や現れ、マフィアが跋扈していたのもこの時代だ。“持つ者”と“持たざる者”がクッキリと分けられた時代でもある。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

モスクワで考古学を学び、いかにも賢そうな級友に囲まれながら生活していたフィンランド人留学生のラウラ(セイディ・ハーラ)は北極圏にある世界最北端の駅があることで知られるムルマンスクにある「ペトログリフ」という岩面彫刻を見に行く予定だったが、共に行くはずだった大学教授でもある同性恋人のイリーナ(ディナーラ・ドルカーロワ)に、急遽仕事が入り、独り旅となってしまう。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

モスクワの駅から寝台列車に乗り込むと、「6号コンパートメント」には先に乗り込んでいたロシア人の炭鉱労働者リョーハ(ユーリー・ボリソフ)がいた。このリョーハという男、態度が悪いだけではなく汚い言葉を吐き、タバコ吸い放題で部屋は白い煙でモクモク…。いかにも育ちが悪そうな、典型的な労働者階級の若者だ。そかしここはロシア。“ガイジン”であるラウラは、ウンザリとしながらも、態度を改めるよう注意することも、部屋を変えることもままならない地獄のような状況だ。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

モスクワ・レニングラード駅から経由地のサンクトペテルブルク・ラドガ駅までは約9時間。サンクトペテルブルク・ラドガ駅からムルマンスク駅まで、直通したとしても、実に26時間だ。ムルマンスクは、北極圏の厳しい気候にありながらも、海軍基地や貿易港を有し、人口は3万人を超える都市で、北極圏内にある都市では世界最大でもある。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

そんな長い旅路の中、相性最悪だった2人は、徐々に心を通わせていく。永久凍土を疾走する列車の中で、2人が徐々に柔らかく、そして温まってゆく様は、ロードムービーでありながら、ラブストーリーでもあるのだ。

ロシア北部といえば、冬場にはマイナス2桁の気温になる。窓から見える外の光景は猛吹雪だ。しかし、そんな極寒の景色が美しくも見える。寒々しい環境ながらも、徐々に心を通わせてゆく、性格的には正反対の2人。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

ラウラは、インテリ層であるイリーナとは違った、やんちゃ坊主のようなリョーハが持つ魅力に気付きつつも、恋愛には不器用で、時に遠回りしながらも、少しずつ距離を縮めていく。

© 2021 Sami Kuokkanen AAMU FILM COMPANY

ストーリーはもちろんのこと、北極圏の美しい光景を効果的に表現している映像美も息を呑むほど素晴らしい。2021年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリに選出され、かつ2022年のゴールデングローブ賞最優秀非英語映画賞にノミネートされたのも納得の、見応えのある一本だ。

(文・寺島武志)

【作品情報】

『コンパートメントNo.6』

© 2021 AAMU FILM COMPANY ACHTUNG PANDA AMRION PRODUCTION CTB FILM PRODUCTION

監督・脚本:ユホ・クオスマネン『オリ・マキの人生で最も幸せな日』
原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
出演:セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ/ディナーラ・ドルカーロワ(『動くな、死ね、甦れ!』)/ユリア・アウグ
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語、フィンランド語
107分/カラー/シネスコサイズ
原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6
映倫区分:G/後援:フィンランド大使館
配給:アット エンタテインメント
公式サイト
© 2021 – AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

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