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「なぜ大ヒット?」映画『RRR』を伝説のジャンプ漫画と比較考察。漫画ファンを虜にする3つの要点【あらすじ 解説 評価】

text by ZAKKY

大ヒット公開中のインド映画『RRR』。主演2人による、超絶キレキレのダンスや、魅力あふれるキャラクター像が日本でも人気を集め、ロングラン中だ。今回は、近年のインド映画を代表する本作の魅力を、名作漫画『キン肉マン』との共通点に着目しながら解き明かしていく。世界でここでしか読めない斬新な切り口に基づいたレビューをご覧あれ。(文・ZAKKY)

【映画『RRR』あらすじ】

舞台は1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた同じ村の中で育った少女を救うため、立ち上がる、純朴でどこか母性本能をくすぐる怪力無双のビーム。大義のため英国政府の警察官となる、幼きころから銃の名手の才能があったラーマ。彼らは、運命に導かれて出会い、唯一無二の親友となり、ビームはラーマのことを「アニキ」と慕う。しかし、ある事件をきっかけに、お互いの友情と使命の選択を迫られることに。

友情、努力・勝利…。
「週刊少年ジャンプ」のキーコンセプトを完璧に体現

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本作を監督したS・S・ラージャマウリは、1973年生まれ。1975年の筆者とは同世代である。前作『バーフバリ 王の凱旋』(2017)が公開された際のインタビューによると、幼少期から、子供向けのインド神話のコミックに夢中だったことを明らかにしている。

一方、バブル経済時代下の日本で思春期を過ごした筆者が幼少期から夢中だったものは、何と言っても「週刊少年ジャンプ」。中でも、8歳の頃にTVアニメの放映がスタートした『キン肉マン』(作・ゆでたまご)には激しく心を掴まれ、小学生時代はほぼ毎日『キン肉マン』のことしか考えていなかったと言っても過言ではない。

前置きが長くなったが、本作を観て真っ先に思い浮かんだのは、子供の頃、貪るようにして読んだ、往年の「週刊少年ジャンプ」、とりわけ今でも筆者が稀代の名作として疑わない『キン肉マン』が体現する自由奔放な想像力との親和性だった。

友情、努力・勝利。言わずと知れた「週刊少年ジャンプ」のキーコンセプトであるが、この3つのワードは、優れたエンターテインメント作品の根幹でもあり、本作『RRR』にも見出せるファクターでもある。とはいえ、『キン肉マン』との親和性に触れる前に、本作の映画作品としてのユニークな魅力をひも解いていこう。

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「エンターテインメントにおける全ての要素がブチ込まれ、しかも整合感がある」

一文で語るのであれば、このような映画である。いや、本当に噂以上のクオリティーを誇る内容で恐れ入った。100年以上もの歴史を誇るインド映画の叡智が画面の至るところに炸裂しており、今までインド映画に馴染みのなかった人をも圧倒するパワーに満ち溢れている。そりゃ、日本でも大ヒットするのも頷ける。

なぜこれほど魅力的な作品に仕上がったのであろうか?

インド映画と言えば、ミュージカル仕立てのイメージが強く、しかも周知の通り長時間にも渡ってダンスシーン描かれる。それが苦手で食指が動かない人も多いのではないだろうか。かく言う、筆者もそうであった。

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しかし、本作では、エンディングは別とすると、本編中、ダンスシーンはたったの1つのみ。さらに、ストーリー上、なければならない要素として組み込まれているのだ。ミュージカルが苦手な人はついつい、「なぜここでいきなり歌って踊りはじめるの?」という疑問に駆られてしまい、シーンに没入できないものだが、本作で描かれるダンスシーンは不思議と観ていて気恥ずかしさがなく、むしろ、音楽に合わせて体を揺らしたくなる。

それは一体なぜか。このシーンでは、パーティー会場において、インド人を馬鹿にするような言動を見せた英国人紳士に煽られる形でラーマとビームが躍り出し、次第に周囲の人々を巻き込んでゆく。程なくして英国人紳士も負けじと踊り出すのだが、身のこなしの華麗さはインド人コンビとは比べるべくもない。

つまり、『RRR』における劇中唯一のダンスシーンは、実質的にバトルシーンとして描かれているのである。ミュージカルは苦手だが、ジャンプコミックはこよなく愛する筆者の琴線に触れたのも、むべなるかなである。

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また、他にも特筆したい点がある。ラーマとビームの友情が育まれる日常のシーンなど、重要な場面ではセリフではなく、流れる楽曲の“歌詞”で状況や人物の気持ちが表現されるのだ。

この手法は、少なくとも日本映画にはあまり見られないものであり、新鮮さを感じた人も多いのではないだろうか。終盤にビームが拷問されながらも歌う場面も、心動かす見事な演出であり、彼が民衆の前で歌う理由が痛いほど伝わってくる。

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