シンプルながら練り込まれた素晴らしい脚本
シンプルながら練り込まれた脚本の素晴らしさにも言及すべきだろう。とにかく、誰と誰がどういう関係性で、今、どこで何が起こっているのか、過去に何があったかなど、ストーリー構成が驚くほどわかりやすい。
特にアーラの少年時代の描写には、目を見張るものがある。彼がどのような境遇で育ち、どのような想いで英国政府の警察官になったのか? その一部始終がとても丁寧に描かれており、観る者は否応なしに感情を揺さぶられるだろう。
さらに、英国政府軍に追われる身となったビームが、アーラの許嫁であるシータと、英国政府軍から逃れるために隠れ家で出会うシーンも見ものだ。シータは、「ここには天然痘の者がいます」といった虚言を駆使した機転を利かせ、英国政府軍を追い払う。そして、アーラとビームが親友であることを知らないシータは、アーラが、英国軍の裏切り者として処刑される寸前であることを打ち明ける。
それを聞いたビームは、シータとは、かつてアーラから聞いた許嫁の存在だと知る。(このシーンにおける、ビームの涙腺の緩み具合に注目!)
シータの思いもしなかった吐露により、ビームはアーラとの決別の原因が、お互いの行動原理のすれ違いにあったことを知る。そこでビームは囚われの身であるアーラを救うために立ち上がる、激熱の展開になだれ込んでいくのだ。
結構、ベタな構成とも言えるが、各キャラクターのポジショニングを最大限に、そして自然に活かしている製作陣の手腕に、舌を巻く次第である。
ここまで賛辞を尽くしてきたが、1点だけ個人的な願望を。前述した英国人紳士が、中盤あたりで何らかの形で味方キャラとして登場したら、娯楽映画としてさらなる盛り上がりを見せたのではないだろうか。とはいえその場合、本作に込められている政治的寓意(英国植民地時代のインド人とイギリス人の対立構造)がボヤけてしまうため、やはりオリジナルの劇展開でよかったのだろう。