カメラが捉えた奇跡的な瞬間の数々

 

© 2024 / JERICO - ONE WORLD FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA
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 本来ならば、一人のピアニストが左右の手で奏でる旋律。しかし、彼女たちはそれを2人で分かち合うように四本の手が、まるで一体となって互いを補う。もちろん、これには特別な奏法が求められる。ただ正確に弾くだけではない。音を紡ぐ2人の心が、完璧に調和しなければならないのだ。まるで一つの魂が宿るかのように、呼吸を合わせ、指先の感覚を共有する。まさに神業である。

 そんな彼女たちを子供の頃から支えてきた両親の存在も大きい。ナンバーワンに拘る父親のセルジュ(フランク・デュボスク)は彼女たちを幼少期からアスリートのように育て上げてきた。とあるコンクールで1番になれなかった彼女たちを支えるために仕事を辞めてしまうほどだ。
 
 そんな夫と娘たちを支える母親のカトリーヌ(イザベル・カレ)も偉大だ。有名ブランドのデザイナーというキャリアを捨て、夫と共に娘たちの夢を支えてきた。優しいけれど、時に厳しく、時に逞しい。まさに「母は強し」という言葉がぴったりな存在だ。

 本作の最大の魅力は、クレールとジャンヌの美しい旋律を奏でる姿を捉えた映像と音楽だ。難病を発症するまでの彼女たちは力強く鍵盤を走らせ、観る者の視線を引きつける。一方で、手が思うように動かなくなった2人が言葉を介さずとも、音楽によって心をシンクロさせていくサマは、映画前半の演奏シーン以上に華麗で、神々しい。2人が誰もいないステージ上でギブスを装着したままゆっくりと鍵盤に触れるシーンは、1/2ピアニスト誕生の瞬間でもある。

 何度も挫けそうになりながらも、姉妹は諦めずに前を向く。ピアノという楽器を通じて自分の心を表現し、逆境を乗り越えようとする。しかし、そこには他者の支えはもちろん、自身の情熱が不可欠である。この映画は、どんな困難な状況にあっても諦めずに歩み続ける勇気と、運命に挑戦する力を与えてくれる。

 主演を務めるカミーユ・ラザとメラニー・ロベールは、その演技力はもちろんのこと、ピアノ演奏シーンでも圧巻のリアリティを見せつける。2人だからこそ生み出せる奇跡の物語。その輝きを、ぜひ劇場で体感してほしい。

(文・阿部早苗)

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