「戦う女」デミ・ムーアの挑戦

映画『サブスタンス』
(c)The Match Factory

 そんな本作において、老いと美への執着を体当たり演技で可視化したデミ・ムーアは、これ以上ないほど最適なキャスティングだったと言える。90年代から彼女の活躍を知っている人なら、同意してくれるだろう。

『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)で、幽霊になってしまった恋人と思いを通わせる無垢なヒロイン役を演じて一躍大スターの仲間入りを果たした。しかし、デミはこの頃からすでに可愛い女性役として消費される虚しさと、年を重ねた女性に対する風当たりの強さを理解していたのではないか。30歳前後でキャリアを模索し始める。

『ア・フュー・グッドメン』(1992)では海軍法務官の弁護士、『幸福の条件』(1993)では大富豪から大金を積まれて1夜を共にする人妻、『ディスクロージャー』(1994)では誘惑を断られるとセクハラ免罪を仕立て上げる上司といった役を演じてきた。

 1996年には、『素顔のままで』で元FBIのストリッパー役を演じた。作品そのものに対する評価は高くないが、全裸同然の格好で真正面を見据えるポスターは強烈な印象を残したに違いない。当時36歳だ。

 この頃から、デミ・ムーアという名前だけでは集客できなくなってきていたと感じる。

 1997年の『G.I.ジェーン』では、男女差別雇用撤廃法を唱える議員によって、アメリカ海軍特殊部隊の訓練プログラムに参加することになった女性役に挑戦。実際に髪を丸刈にして世間を圧倒させた。

 当時、デミ・ムーアは、ひたすら戦っていた。今になって振り返ると、その戦いは「キャリアの迷走」という言葉で片付けられてしまっていた気がする。

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