特殊詐欺被害者が自身の実話を映画化…。『ジェリーの災難』評価&考察レビュー。異色ずくめの実録モノの魅力を解説
ロー・チェン監督の映画『ジェリーの災難』が公開中だ。定年退職をした男がひょんなことからスパイに仕立て上げられ、犯罪に巻き込まれる過程を描いた本作はなんと実話。驚くべきことに、脚本・主演を務めたのは実際の被害者であるジェリー・シューだ。そんなユニークな枠組みを持つ本作の見どころを解説する。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:青葉薫】
横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
自己救済の為に創られた異色作
表現とは自己の救済手段でもある。私小説。シンガーソングライターの歌。絵画や写真。そして映像作品。表現者が傷ついた自己を治癒するため「自分自身との対話」を通じて紡ぎ出したものが創作物として世に出ていく。表現者を救済した創作物には鑑賞者を救う力が宿っている。
「ジェリーの災難」も監督こそ本人ではないが、ある事件の被害者となったジェリー・シューが脚本を書いて主演した、自己救済の為に創られた映画だと言える。
1970年代、台湾からスーツケース2つでアメリカに渡ったジェリー。彼には「ある夢」があった。だが、妻と三人の子どもたちを守るべくエンジニアとして40年間、身を粉にして働くことを選んだ。家族の為に倹約家となり、幾許かの財を為した。子どもたちは自立した。浪費家の妻は「もっと人生を楽しみたい」と熟年離婚を選んだ。ジェリーは退職してひとりになった。69歳。かつての夢はとうに埃を被っていた。築き上げた財産も結婚する息子のマンションの頭金ぐらいしか使い道がない。
そんな彼の元に中国警察から緊急の電話が入る。
「あなたが国際的なマネーロンダリング事件の容疑者になっている」
このままだと逮捕され、中国に強制送還されるという。彼は身の潔白を証明すべく、中国警察のスパイとして事件の捜査に協力させられていく———。
典型的な特殊詐欺だ。日本では2024年の被害総額が過去最悪の721億円超を記録している。最近は実在する警察の電話番号からも「あなたに犯罪の容疑が掛かっている」と警察の名を語る詐欺電話が掛かって来るそうだ。以前は番号の前に「+」と「国番号」が表示されるケースが多く詐欺電話だと見破る手掛かりがあったが、実在の警察の番号となるともはや着信画面を見ただけでは見抜くことができない。事実は小説よりも奇なり。年々巧妙化する詐欺グループの手口は創作者たちの上をいく。