犯人へのリベンジ手段としての映画
渡米したときと同じ文無しとなり、Uberの配達員として日銭を稼ぐ日々。溜め込むのではなく使えば良かった。もっと人生を楽しめば良かった。そんな後悔の中で頭を掠めるのが「立派な死より無様な生」という中国のことわざ。日本の武士道とは対極の人生観だ。芸人がトーク番組などで失敗やコンプレックスを笑いに昇華するのに近いかもしれない。悲しみのどん底にいる自分も客観的に見たら笑えるのではないかとネタにすることで失敗は失敗でなくなる。コンプレックスは武器になる。逆境に追い込まれ、失うものがなくなったジェリーもそのことに気づいた。部屋の片隅で長年埃を被っていた「夢」のおかげで。
家族を守る為に諦めたはずだった「夢」。でも、今の自分には守るべきものも失うものもない。ならば一番やりたかったことをやろう。
背水の陣で夢に挑んだ結果として生まれた本作は前代未聞、異色ずくめの実話映画としてスラムダンス映画祭を筆頭に40もの世界映画祭で多くの賞にノミネートされ、最優秀主演男優賞を含む受賞歴を獲得。彼は見事なアメリカンドリームを掴み取る。
まさに、災い転じて福と成す。
スパイコメディのような前半部から一転、後半では一致団結して彼の夢を支える家族の絆と人生賛歌に胸が熱くなる。
本作を観て唯一悔しがるのは、中国警察の名を語ってジェリーの資産を掠め取った詐欺グループだろう。自分たちが推敲を重ねて練り上げたシナリオをまんまと被害者に「盗まれた」のだから。今後の興行成績如何では詐欺グループが得た以上の金を稼ぎ出す可能性だってある。脚本の一旦を担っているのは間違いなく特殊詐欺グループなのに彼らには著作権料が一ドルも振り込まれない。持っている証拠次第では盗作だと訴えれば受理されるかもしれない。同時に詐欺罪で逮捕されるのは100%間違いないだろうが。
(文・青葉薫)
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