アジア太平洋映画賞で最優秀演技賞受賞
イ・ジョンウンの卓越した演技力
注目は、なんといってもアジア太平洋映画賞で最優秀演技賞を受賞したイ・ジョンウンの演技だろう。出世作『パラサイト 半地下の家族』では「怪演」と言うにふさわしい振り切った演技を見せていたジョンウンだが、本作ではかつて映画業界で戦った先達に敬意を表し、知られざる歴史を掘り起こそうとする映画監督ジワンを静かに、そして時にコミカルに演じている。
また彼女の夫役のクォン・ヘヒョにも注目。クォンは、数多くの集会やデモの司会者なども務める社会運動への参加が多い俳優であり、映画界を含めた社会全体の男女の機会均等に力を入れていることでも知られる。このあたりにも、キャスティングを担当したシンたちの本気度がうかがえる。
なお、本作に登場する『女判事』は実は実在する作品で、監督の名前はホン・ウノン。シンは、この『オマージュ』の制作に先がけて女性映画監督にスポットを当てたテレビ向けのドキュメンタリーを2013年に制作しており、そこで韓国初の女性映画監督パク・ナモク(2017年に94歳で死去)とホン・ウノンを取り上げていた。シンは、『女判事』のフィルムが未発見であったこと(その後フィルムの3分の2が発見された)や映画監督としての自身の実体験から発想を膨らませ、2019年から本作のシナリオを描き始めたという。
さて、本作では、『女判事』を担当した女性の編集技師が登場する。長年座り仕事をしていたせいで歩くのに杖が欠かせない彼女は、終盤、ジワンが発見した『女判事』の欠落したフィルムを見ながら、ジワンに向かってこうつぶやく。
「あなたは生き残りなさい…」
彼女たちの気高さは、確かにジワンへと受け継がれた。
(文・柴田悠)
3月10日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次公開!
【作品情報】
『オマージュ』
監督:シン・スウォン『マドンナ』
出演:イ・ジョンウン『パラサイト 半地下の家族』、クォン・ヘヒョ『あなたの顔の前に』、タン・ジュンサン『愛の不時着』
2021年|韓国映画|韓国語|108分|5.1ch|シネスコ
原題:오마주|英題:Hommage|字幕翻訳:江波智子
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
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