「ずっとドパルデューを撮りかった」
ベテランと若手の掛け合いにも注目
監督であるルコントは、これまで粋でおしゃれな大人の恋愛劇を得意とする監督として知られてきた。しかし、あらすじからも分かるように、本作でも一応年老いたメグレと若い女性との出会いという軸はあるものの、はっきりとした恋愛関係として描かれることはない。むしろ、パリの社交界の片隅で暮らす女性の孤独や、それに対するメグレの憐憫の情が描かれる。
注目は、なんといってもドパルデューが演じるメグレだろう。彼は現在74歳でメグレにしてはかなり高齢だが、若い頃のギラギラ感が抜け、監督のルコントが「ずっとドパルデューを撮りかった」というのも分かるように、重厚で苦み走った演技を見せている。
特にドパルデューが演じるメグレは、年齢のこともあって人生に疲れ切っている。トレードマークでもあるパイプも医者に止められており、現在禁煙中。判事の元を訪れたメグレがいつもの癖でパイプに手を伸ばし、部屋の熱帯魚がいるから吸わないでくれ、と制止されたり、部下にパイプの正しい吸い方を教えたりと、無骨なメグレの内面が垣間見える愛らしいシーンも見られる。
加えて、メグレが事件の被害者の面影を重ねるベティ役のジェイド・ラべステにも注目。若干27歳ながら、どこか古き良きフランス映画を見ているような厭世的でアンニュイな雰囲気を漂わせ、ドパルデューとも丁々発止の掛け合いを見せている。
また、それまでのルコント作品にはあまり見られない寒色が基調の映像も印象的。どこか霧がかかったような落ち着いたトーンで、陰鬱ながらモダンな本格ミステリーの雰囲気を漂わせている。