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登場人物それぞれの“死に様”に注目〜演技の魅力

トム・ハンクス(ドーヴィル・アメリカ映画祭より)
トムハンクスドーヴィルアメリカ映画祭よりGetty Images

本作の圧倒的なリアリティは、役者たちの演技に支えられていると言っても過言ではない。どの役者も圧倒的な演技を見せている。

主役のジョン・ミラーを演じたのは、アカデミー賞最優秀主演男優賞を2度受賞した経験を持つ、名優トム・ハンクス。スピルバーグ作品では『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)などに出演し、朴訥で善良な人物を演じてきた。本作も例外ではなく、過酷な戦場でも自らの良心に従って行動する兵士を自然な演技で演じている。

物語の中心であるライアン二等兵を演じたのはマット・デイモン。実際に彼が登場するのは作中の後半部だが、短い時間でライアンがどんな人物で、ミラーたちとの触れ合いを通してどんな成長を遂げたのかを的確に表現している。

なお、本作のクランクイン前、ハンクスたちは元海兵隊の将校の指導のもと10日間にわたる過酷な新兵訓練を体験。しかし、ライアンはスピルバーグの意向でこの訓練から外されており、何も知らないライアンが現場入りした際には険悪なムードが漂ったという。

役者たちの死の演技にも注目したい。本作には、剣でのどをかき切られてもがき苦しみながら亡くなったたり、銃剣でゆっくりと刺されて静かにこと切れたりと、さまざまな死が登場する。

とりわけ秀逸なのはミラーの死だろう。橋頭堡で銃撃され、ライアンと最後の会話を交わす彼。と、目線をふっと下に落としたかと思うとすでに事切れている。かなり斬新な死の表現である。

また、脇役ながらもいぶし銀の活躍を見せるのは、バリー・ペッパー演じる天才スナイパー・ジャクソン二等兵だろう。寡黙でありながら、要所要所で重要な仕事をしており、その存在はどこか黒澤明監督『七人の侍』における、ストイックな凄腕の剣客・久蔵(宮口 精二) を想起させ、終盤の戦いで命を落とすという点も共通している。

一方、主要人物の中で生き残ったのは、エドワード・バーンズ演じる「ライベン」、ジェレミー・デイビス演じる「アパム」、そしてライアンの3名である。中でもアパムに扮したジェレミー・デイビスは、敵兵であっても殺害をためらう、気弱なキャラクターを好演。クライマックスの戦闘では、アダム・ゴールドバーグ演じるメリッシュから「アパム、弾! 弾持って来ーい!」と呼び掛けられるも、激しい戦闘に怖気づき、彼を見殺しにしてしまう。勇敢な兵士ばかりが登場するのではなく、彼のような気弱なキャラクターを配することによって、戦争の悲惨さが立体的に表現されているのだ。

なお、冒頭のオマハビーチのシーンでは、ロケ地となったアイルランドの陸軍軍人がエキストラとして多数参加。彼ら一人一人の死に様もつぶさに観察したい。

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