リアリティを徹底追求した戦場の描写〜映像の魅力
本作の撮影監督はヤヌス・カミンスキー。『シンドラーのリスト』以降、スピルバーグを陰で支え続ける名カメラマンである。格調高い光と影の表現と、躍動感あふれる映像が持ち味の彼だが、本作ではあえてチープな映像技術を用いることで戦場の凄惨さを引き立てている。
一番の特徴は手持ちカメラの使用だろう。特に冒頭のオマハビーチの戦いと終盤の市街戦では、鑑賞者が画面酔いしてしまうほどにカメラをぶん回すことで、どこから銃弾が飛んでくるかわからないドキュメンタリー映画さながらの緊張感や死の瀬戸際にいるミラーたちの心の揺れを表現している。
二つ目はシャッター開角度(フィルム映像カメラの回転シャッターの切れ込み角)。通常は180度が一般的だが、これを45度に絞ることで被写体のブレを抑え、カクカクとした映像を生み出している。
この映像は軍人たちの過酷な心理状態を巧みに表現しており、実際に本作を見た第二次世界大戦に参加した軍人がフラッシュバックを発症したという逸話が残されている。
なお、通常の劇映画では、監督の演出意図をキャストやスタッフと共有するため、撮影に先立ってストーリーボードや絵コンテなどの「設計図」作られることが多いが、本作ではこれらが作成されずほぼ即興で撮影されている。ここにも、戦場をドキュメンタリータッチで記録したいというスピルバーグの意図が垣間見える。