マグノリア 脚本の魅力
脚本を執筆したPTAは、1960年生まれの女性シンガー・ソングライター、エイミー・マンの楽曲にインスパイアを受けて、本作の物語を着想したと公言している。
性別、年齢、職業を異にするメインキャラクターたちの描き分けは鮮やかそのもの。天才クイズ少年・スタンリー(ジェレミー・ブラックマン)と、元・天才クイズ少年だった落ちこぼれ中年のドニー。あるいは、「女性を誘惑してねじ伏せろ」と説くナンパ師のフランク(トム・クルーズ)と、コンプレックスの塊であり奥手なジム(ジョン・C・ライリー)など、相似的、あるいは対照的なキャラクターを巧みに配置することで、作品世界を多様性に富んだものにしているのだ。
枝葉のように分かれる複数の物語を一本の幹に繋ぎとめる語りのテクニックとして、天変地異を導入する手法がある。例えば、本作と同じ3時間超えの群像劇である、ロバート・アルトマン『ショート・カッツ』(1993)では、大地震のシーンをクライマックスに持ってくることで、映画全体に一本の芯を通している。
本作を「『ショート・カッツ』の姉妹編である」と公言するPTAは、ラストにカエルの大雨を降らせることで、敬愛するアルトマンの手法に範を仰いでいる。
一方、『ショートカッツ』の大地震が、愚かな登場人物たちへの「天罰」としてあるのに対し、本作におけるカエルの大雨は悩める登場人物たちにとって「恩寵」(神の恵み)としてある。
人間がコントロールできない「偶然」や「不確実性」への洞察に富んだ本作は、アルトマンのストーリーテリングを換骨奪胎することで、「この世界は驚きに満ちている」というメッセージを説得力豊かに提示することに成功している。