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インヒアレント・ヴァイス 配役の魅力

ホアキン・フェニックス
ホアキンフェニックスGetty Images

主役の私立探偵・ラリ-・”ドック”・スポーテッロを演じるホアキン・フェニックスは、『ザ・マスター』でも主演を務めており、PTAとのタッグは本作で2回目である。のべつまくなしにマリファナを吸引し、常にラリった状態で事件解決に奔走する前代未聞のキャラクターを肩の力の抜けた芝居で怪演している。

思い返せば前作でも、塗装用シンナー入りの違法カクテルを飲み干して前後不覚になるなど、破天荒なシーンは多かった。とはいえ、戦争で負ったトラウマを紛らわせるために酒に溺れる前作の主人公とは異なり、根っからのヒッピーであるドックからは悲壮感が感じられない。

一方、無目的に快楽をむさぼり、幸福な過去を追想する姿からは虚無的なニュアンスが感じられ、ヒッピーカルチャーの”終わりの始まり”である1970年代前半の雰囲気を体現したような、気だるい佇まいが印象的である。

ドックの腐れ縁である刑事・ビッグフッドにはジョシュ・ブローリンが扮し、アクの強い芝居でホアキンに拮抗するほどの存在感を発揮。弁護士のソンチョに扮したベネチオ・デル・トロ、コメディリリーフでもあるコーイ役のオーウェン・ウィルソンなど、主役級の俳優が脇を固め、作品に厚みをもたらしている。また、世界有数のコメディアンであるマーティン・ショートも出演。コカイン中毒の変態歯科医を楽しげに演じており、観る者に乾いた笑いをもたらす。

女性キャストに目を転じてみよう。ヒロイン・シャスタに扮したキャサリン・ウォーターストンは、役者の父とモデルの母を持つ筋金入りのサラブレット。本作では自然体の芝居で「運命の女」をそつなく演じているが、ドックを骨抜きにしてしまうほどの魅力は感じられず、幻想的なライティングで撮られていることも相まって、やや空疎で中身のないキャラクターとなっている。また、それは検事のペニー(リース・ウェザースプーン)をはじめとした他の女性キャストに関しても似たような印象を受ける。

次作『ファントム・スレッド』における女性キャストの生々しい存在感に引き比べると、本作では女性キャストの魅力が乏しく、男性キャストによる充実したパフォーマンスとの間にテンションのギャップが生じているようだ。

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