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『オズの魔法使』とアイデンティティの欠落〜脚本の魅力

映画『17歳のカルテ』
映画17歳のカルテの1シーン手前はリサロウを演じたアンジェリーナジョリー奥は拒食症ジャネットを演じたアンジェラベティスGetty Images

ライダーやマンゴールドは、本作の制作にあたり、同名の児童小説を原作としたミュージカル映画『オズの魔法使』(1939年)を参考にしたという。『オズの魔法使』は、不安定な少女ドロシーが、竜巻に巻き上げられて魔法の国オズへたどり着き、仲間たちと自分探しの旅を繰り広げる話だ。

主人公スザンナは、アイデンティティが確立していないドロシーになぞらえられているという。なお、カリスマ性を発揮してスザンナたちをまとめ上げるリサは、ドロシーに敵対する西の魔女がモデルになっている。

なお、『オズの魔法使』は、クレア・デュヴァル演じる患者の一人・ジョージーナのお気に入りの作品である。特に終盤、ドロシーが家に帰る場面をジョージーナがテレビで見ているシーンは、スザンナが自らのアイデンティティを取り戻し、精神病院を出て現実の世界に帰っていくことのメタファーとなっている。

『オズの魔法使』では、ドロシーが知恵のないカカシと心を持たないブリキ男、臆病なライオンと出会うが、物語が進むにつれ、彼らが実ははじめからそれらを持ち合わせていたことを悟る。これと同様に、精神病院の入院患者は、みな欠落した何かを探しており、スザンナただ一人が、実は自分には欠落した部分などなかったことを悟る。スザンナにとっての最大の治療ー。それは、病院を出て今までの現実と向き合うことだったのだ。

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