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賛否両論のラストを深掘り考察。映画『ノック 終末の訪問者』の評価は? M・ナイト・シャマランの現在地【後編】

text by 冨塚亮平

世界の終わりと家族の死…。M・ナイト・シャマラン最新作『ノック 終末の訪問者』は、とある一家が迫られる究極の選択を描いた新感覚のスリラー映画だ。本作を論じつつ、シャマラン監督の魅力を丁寧に紐解くロングレビューを掲載。後編では物語の結末に触れながら、同監督の可能性の中心に迫る。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

※この章では原作と映画のクライマックスについて言及があります。
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賛否両論の結末を深掘り考察

① 原作では中盤で養女が死ぬ

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新たな試みに満ちた『ノック』は、サスペンス性という視点から見れば、未知の領域に一歩踏み込んだ意欲作かつ傑作であると断言できる。

しかしシャマランは、四人組とエリックが「見た」ビジョンが正しいのか、科学的で常識的なアンドリューの視線が正しいのかを最後まで明かさず、あえて曖昧さを残した原作のアダプテーションを行う過程で、いかにも彼らしいことではあるが、結末をほぼ180度異なる形に書き換えてしまう。最後に、四人組に過剰に寄り添おうとするようにも見えるスタンスから、激しい賛否が渦巻いている映画版独自の結末について、原作や過去作との関連も踏まえつつ考えてみよう。

原作では、四人組と争うなかで暴発したアンドリューの銃弾によって、物語の中盤で養女ウェンは亡くなってしまう。それ以降陰鬱さを増していく小説のストーリーは、最後に愛する相手を生贄に捧げること、つまりは選択を拒否したエリックとアンドリューの二人が、その後実際に終末が到来するのかはわからぬまま、小屋を出て車に乗ることで終わりを告げる。

原作者トレンブレイは、信仰をめぐるサスペンスを解消させないことで、同時代のカルトとギリギリまで近接する物語の危うさに折り合いをつけようとしたと言えよう。

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