「アンジェラ・ユンはAI女優」映画『星くずの片隅で』ラム・サム監督、独占インタビュー。コロナ禍で清掃業に勤しむ人々を描く
香港の人気シンガーソングライター・俳優ルイス・チョンとアジアが誇るトップモデルアンジェラ・ユンがダブル主演を務めた、映画『星くずの片隅で』が7月14日(金)より公開される。今回は、本作のメガホンをとったラム・サム監督の独占インタビューをお届け。細部の演出やアンジェラさんとのエピソードから、影響を受けた日本の映画監督まで、幅広くお話を伺った。(取材・文:山田剛志)
—————————————–
【ラム・サム監督プロフィール】
林森LAM Sum。1985年生まれ。香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。短編映画やドキュメンタリー映画の制作のほか、映画制作の講師としても活動。代表作に短編『oasis』(12)、共同監督作『少年たちの時代革命』(21/日本公開22年)など。本作が初の単独長編監督作。2022 年よりイギリス・ロンドンを拠点に活動する。
【映画『星くずの片隅で』あらすじ】
2020年、コロナ禍で静まり返った香港。「ピーターパンクリーニング」の経営者ザク(ルイス・チョン)は、車の修理代や品薄の洗剤に頭を悩ませながら、消毒作業に追われる日々を送っている。リウマチを患う母(パトラ・アウ)は、憎まれ口をたたきながらも、たまに看病にくるルイスのことを心配している。
ある日、ザクの元にド派手な服装の若いシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)が職を求めてやってくる。まともな仕事をしたことがなさそうなキャンディだったが、娘ジュー(トン・オンナー)のために慣れない清掃の仕事を頑張りはじめる。しかしキャンディがジューのために子供用のマスクを客の家から盗んだことで、ザクは大事な顧客を失ってしまい…。
「父から受け取った温かさを観客に感じさせたかった」
主人公のキャラクターに込めた思い
―――本作は、清掃業を営む主人公・ザクが、マスクと防護服で全身を覆い、消毒液を撒くシーンから幕を開けます。舞台がコロナ禍であることを鮮烈に示す描写ですが、プレス資料によると、パンデミック以前にすでに脚本の構想はあったとのことですね。世の中がコロナ禍に突入したことによって、脚本は劇的に変わったのでしょうか?
「変わったところと変わってないところがあります。パンデミック以降、香港では他の都市と同じように、街から人影が消え、マスクの着用が義務づけられ、集合禁止令が出され、イートインスペースが閉ざされるなど、様々な制約が課されました。脚本もそれに合わせて変更を加えました。
一方、ザクとお母さんの関係性や、主人公がクリーニング屋を営んでいるといった設定など、キャラクター背景については、最初のシナリオから変わっていません」
―――キャラクター設定という点で目を引くのは、ザクの実直な人柄です。苦境を強いられても決して腐らずに前を向き続ける。ザクが体現する儒教的な価値観が映画全体に流れていると感じました。
「本作の準備中だった2019年には香港で大きな政治運動がありました。また、2020年に入るとすぐにパンデミックが起こり、香港のみならず世界中で、人と人との間の信頼関係が薄れてきているのではないかと危惧の念を抱きました。
そうしたこともあり、私は、ザクを童話に出てくる登場人物のような、純粋な心を持つキャラクターとして造形しました。人間関係を築く上で大切な温かさや愛を、キャラクターを通じて感じてもらいたいと思ったのです。それは映画全体の趣旨でもあります。
また、ザクには私の父の要素が入っています。父はコロナ禍で亡くなってしまったのですが、とても優しい性格の持ち主で、誰に対しても寛容で誠実な人でした。ザクというキャラクターを通して、私が父から受け取った温かさを、観客にも感じてほしかったのです」