鋭い演出が浮き彫りにする香港という街のリアル
―――ザクには監督のお父様の面影があるのですね。一方、もう一人の主人公であるアンジェラ・ユンさん演じるキャンディは、時にはずる賢く振舞い、強かに生きていくタイプです。ザクとキャンディが交流することで、お互いが自身には無いものを学んでいく物語にもなっていると思いました。
「ザクはとにかく誠実で、人に対して優しくしないといけないと思っている。一方、キャンディは人生を自分で切り開き、図太く生きていくタイプです。
また、両者は世代や性別も異なれば、信念も異なります。しかし、まったく異なる者同士でも、お互いを尊重し、信頼関係を築き、愛し合うことができるということを、映画で表現したかったのです。そうしたこともあって、両者のキャラクターを明確に描き分けるようにしました」
―――もしかしたら、両者のキャラクター設定には、西洋的な価値観と、東アジア特有の儒教的な価値観が混在する香港のリアルを反映しているのではないかと思いました。
「香港が持つ複雑性が現れているのは間違いないと思います。この映画では、ザクとキャンディのみならず、他にも様々な価値観が交錯しています。貧しい人もいれば、お金持ちもいる。香港には、様々な階級の人たちが暮らしています。
例えば、劇中で度々言及される“移民”というトピックに関しても、階級によって捉え方が異なります。国が住みづらくなっても、お金持ちの人は他国に移り住むという選択肢がありますが、貧しい人は一生働いてもそんなことは出来やしない。
また、富裕層はクリーニング屋を雇い、部屋の掃除もしてもらう一方、ザクたちのように、彼らからお金をもらって、清掃業に勤しむ人たちもいる。映画全体を通して、香港という場所の複雑性を演出しました」
―――随所でキャンディが日本語を口にする場面が登場しますが、香港ではポピュラーなのでしょうか? また、そのアイデアは監督かアンジェラ・ユンさん、どちらによるものだったのでしょうか?
「香港の若者は日本の影響を強く受けています。私は以前、語学学校の先生をしていたことがあるのですが、生徒たちは日本のカルチャーが大好きで、積極的に日本語を学び、チャットグループで日本語を使う場面を何度も目の当たりにしました。それもあり、キャンディのキャラクターを造形する上で、彼女を日本文化が大好きな、今どきの若者のように描きたいと思いました。
とはいえ、日本語のセリフに関しては、実はアンジェラ・ユンさんのアドリブなのです(笑)。あとから見返したら、キャラクターに合っていると思い、そのまま残しました」