「アンジェラ・ユンはAI女優」
影響を受けた日本映画について語る
―――ラム・サム監督から見て、アンジェラ・ユンさんはどんな女優さんでしたか?
「実は元々、キャンディ役は別の役者にお願いする予定だったのです。しかし、スケジュールが合わず、アンジェラさんに声を掛けました。
当時の彼女は、映像作品への出演経験も豊富とは言えず、正直、不安がなかったわけではありません。しかし、クランクインして、撮影を進めていくにつれて、不安が払拭されるどころか、『この人は凄いな』と何度も思い知らされました」
―――どのような点が“凄い”と思われたのでしょうか?
「キャラクターを演じることに対する準備が素晴らしいと思いました。彼女は、シーンごとに、キャラクターがどう動くのか、自分なりの考えを持っています。また、日を追うごとにどんどん成長するのです。彼女に関して、一言で言うと、私はAI女優だと思っています(笑)。自己学習能力が飛び抜けています。撮影の初日はとても緊張していましたが、2日目からはすっかりキャラクターに入り込んでいました。
印象的だったのは、撮影3日目の娘役のトン・オンナーちゃんとのシーン。まるで本当の親子のように深く演じてくれて、その場にいたクルーが感動を抑えきれなかったほどです。私は、撮影中は冷静に見ていたのですが、編集時にその場面を観た時に、心から感動すると同時に、映画の中で輝く人だなと思いました。
一見何も考えていないようで、物凄く考えている、とても素晴らしい役者さんでした」
―――コロナ禍の街の光景、深刻化する格差社会に向けるまなざしなど、日本でも高い共感を得られる作品だと思います。古今東西の映画に影響を受けているとは思いますが、日本映画で影響を受け作品、あるいは影響を受けた監督はいらっしゃいますか?
「私が今まで観た映画の中で、最も影響を受けた作品の一つが、是枝監督の『誰も知らない』(2004)です。私が作っている作品は、共通点の無い人たちが関係を築き、どのようにして愛を育んでいくのかをテーマに据えています。
『誰も知らない』もまた、それまで関係の無かった人たちが、とある出来事をきっかけに、関係性を築いていく過程が描かれます。それは自分にとってとても大切なテーマです。この映画を観た当時は、まだ映画学校に通う前でしたが、とても影響を受けました」
―――映画を志すきっかけになった作品、といっても過言ではないのでしょうか。
「『誰も知らない』を観て、初めて映画の感想文を書きました。自分にとってそのくらいインパクトがありました。この映画に衝撃を受けたことをきっかけに、1~2年後には映画学校に入ることになったのですから、自分が映画を目指すきっかけになった作品だと言っていいと思います」
(取材・文:山田剛志)
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