貧困と格差の“見えにくさ”を描く
『映画チャンネル』のインタビューで、ラム・サム監督は最も影響を受けた作品の一つに、是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004)を挙げており、同作はもちろん、貧困や経済格差をテーマとしている点では、『万引き家族』(2018 年)も思い起こさせる。本作の特徴の一つは、貧困だけでなく、その見えにくさと、コロナが浮き彫りにした格差を描いていることにある。
キャンディは、扇風機を買うのにも苦労するほど経済的に追いやられているが、インフルエンサーのようなフォトジェニックな格好で登場する。彼女たちの部屋はかなり狭いが、照明は穏やかで、一見すると悲壮感がない。しかし、その部屋を追い出されて、モーテルのような部屋に泊まるとき、その狭い窓から上空を見上げるときに、彼女たちの境遇が一気に可視化される。
また、それはザクも同様だ。彼が母親と一緒にいる部屋だけでは、経済的な状況がつかみにくい。救急車が到着する場面、アパートを正面から撮ったカットは、非常にポップな色彩で、緊迫感のある救急とは対照的だ。