苦しい境遇を生きる主人公を優しく包むような視点
コロナ禍と清掃業者の仕事は、香港の都市の格差を浮き彫りにする。二人が清掃に入った家は、その最初のカットだけではザクたちの家と大差ないように見える。しかし、高価な日本製のマスクが大量に入っているダンボールを映すことで、その家が裕福であることが暗示される。一方で、キャンディはそのマスクを盗もうとし、ザクの母親は一枚のマスクを蒸して繰り返し使おうとしている。
そのマスクを含め、ザクとキャンディは仕事を通じて、都市が覆い隠す部分に触れていく。清掃作業によって、都市の格差が顕になる。窓から海の見える裕福なマンションや成功した店舗を消毒する一方で、孤独死した人の住む部屋の清掃にも直面する。
まるで何事もなかったかのように、ポップで均質化された都市に戻すかのように洗い流されるが、二人だけが孤独に亡くなった人の痕跡に向き合い、なんとか折り合いをつけようとする。この二人も苦しい境遇だが、本作は、外への憧れを示しつつ、香港で生きていかざるを得ない人々を、優しく包み込むように映し出す。