『パラサイト 半地下の家族』 演出の魅力
1955年の『マーティ』以来、65年ぶりとなるアカデミー賞最優秀作品賞とカンヌ国際映画祭パルムドールの二冠に輝いた、21世紀を代表するフィルム。
メガホンをとったのは、韓国を代表するヒットメーカー・ポン・ジュノ。クリス・エヴァンス主演のSFアクション『スノーピアサー』(2013)、謎の巨大動物をめぐるアドベンチャー映画『オクジャ/okja』(2017)と2本続けてハリウッド作品を手がけた後、地元に帰還して撮り上げた本作は、ハリウッド仕込みの娯楽性と格差社会への鋭い批評性が高いレベルで共存した、特定のジャンルに収まらない怪物的作品である。
キム一家が暮らす半地下は、実際に存在する場所ではなく、美術監督イ・ハジュンがゼロから作り上げたセットである。鼻をつんと刺激する下水道の臭いまで再現したという完璧な作り込みによって、下層階級の過酷きわまりない暮らしぶりが克明に表現されている。
半地下の大きい窓からはストリートを行き交う庶民の姿が絶え間なく見える一方、高台の一等地に建てられたパク家の大きな窓からは緑豊かな美しい庭園風景が一望できる。キム家とパク家を隔てる圧倒的な経済格差を、低地/高地のコントラストによって鮮やかに視覚化する空間設計がなんとも素晴らしい。
また、それぞれの住居から見える景色の違いを明確に描き分けることによって、キム家のメンバーがパク家に足を踏み入れた瞬間におぼえる、高揚感と劣等感が入り混じった複雑な感情をさりげなく引き立たせている点も見逃せない。
キム家の美しい庭園が血まみれの舞台に一変するクライマックスの惨劇には胸がすくような爽快感はない。ポン・ジュノはスローモーションを駆使して、かりそめの秩序が崩壊していく様子を引き延ばすようにじっくりカメラに収めることによって、悲鳴と笑いが一瞬ごとに交差する、オリジナルな感情を観る者に突きつける。目も覆わんばかりの殺戮シーンが暗い夜ではなく、明るい日差しが降り注ぐ白昼下で行われている点も、クライマックスをよりユニークにしているファクターにちがいない。
社会問題に直結するダイナミックな空間描写とジャンル横断的な描写以外にも、キャラクター造形、小道具、ロケーションなど、作品を構成するあらゆるファクターに細心の演出がほどこされている点も特筆すべきだろう。
一例を挙げると、キム一家が食卓を囲む序盤のシーンは中盤でも繰り返されるが、その際、食卓の上のビールの銘柄は安価な韓国産のものから高価な日本産のものへと変化しており、職を得て羽振りが良くなった一家の暮らしぶりの変化を、さりげなく示しているのだ。このように、二度、三度と繰り返し鑑賞することで物語に深みを与える細部の演出もきわめて充実している。