『パラサイト 半地下の家族』 音楽の評価
音楽監督は歌手、作曲家、音楽プロデューサーとして広く活躍するチョン・ジェイル。映画にとどまらず演劇にも腕をふるい、ポピュラーミュージックも手がけるマルチな才能である。ヨハン・セバスチャン・バッハに代表されるバロック音楽を基調としたサウンドトラックは、シーンによって変幻自在にアレンジされ、コメディからサスペンスまで幅広いジャンルの要素を兼ね備えた本作の多彩な表情を優雅に引き立たせている。
パク家の面々がピクニックに出かけたのをいいことに、キム家のメンバーが主人不在の豪邸に乗りこみ好き勝手に振るまう牧歌的なシーンでは、ゆったりとしたソプラノ曲が使用されている。しかし、牧歌的なムードは元家政婦のムングァン(イ・ジョンウン)の登場によって一変し、画面は一気にサスペンスの色合いを帯びる。
彼女は豪邸の地下室に夫・グンセをかくまっており、地上に這い出てきたグンセによってキム一家は拘束されてしまうのだ。その後、グンセとムングァンの隙をついて形勢逆転したはいいものの、すかさずパク夫人から電話が入り、間もなく帰宅する旨が告げられる。
パク夫人からの電話をきっかけに音楽は激しいムードに転調。音楽は徐々に高鳴りはじめ、散らかった室内を元の状態に復帰するべく奔走するキム一家の慌ただしいアクションとシンクロし、ミュージカルのような印象を作りだす。パク夫人のオーダーによっておよそ8分でジャージャー麺を作ることになった母・チュンスクが鍋に水を貯め、包丁で食肉を切断する物音もリズミカルであり、サウンドトラックと絶妙に絡み合っている点にも注目したい。