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天才の愚かさを提示するシベリア
二郎に突きつけられた不都合な現実

『風立ちぬ』(2013)シベリア

© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK
© 2013 Studio GhibliNDHDMTK

【作品紹介】

航空技術者・堀越二郎の半生と作家・堀辰雄の同名小説をもとに宮崎駿が連載した漫画を映画化。主人公の堀越二郎は飛行機設計技師として、大日本帝国海軍の戦闘機の開発に携わる。ある夏、避暑地を訪れた二郎は関東大震災の際に助けた里見菜穂子と再会。やがて2人は結婚するも、病弱な菜穂子は療養所暮らしを余儀なくされる。そんな菜穂子の存在にも支えられながら、二郎は太平洋戦争の時代に戦闘機開発で才能を開花させていく。

【注目ポイント】

二郎はある日の仕事帰りに、シベリアを購入する。

シベリアとは、カステラに羊羹やあんこを挟んだお菓子。その名の由来は日露戦争に従軍した職人が作った、シベリアの永久凍土に見立てた、など諸説あるが、関東では大正時代から食べられていたようだ。

シベリアを購入した二郎は、店先で幼い弟をおんぶする女の子を見かけ、彼らにシベリアを与えようとする。しかし、女の子は受け取らず、走り去っていってしまう。

その出来事を同僚である本庄に話すと、彼は「それは偽善だよ」と二郎を諭すのだった。腑に落ちない様子の二郎に対し、本庄は続けて、自分たちが関わっている飛行機の金具の高額さに言及し、国が戦闘機にかけているお金で、飢えた子供をどれだけ救えるか説くのだ。

本作は飛行機の設計に没頭する二郎の姿が描かれる。それゆえ、彼はそんな不都合な真実を知らない。完璧な飛行機を作るという二郎の夢は、国民の貧困という犠牲の上に成り立っているのだが、そんなことに考えも及んでいない彼の性格がシベリアのシーンから見てとれるのだ。

本作に登場するシベリアは、国の未来を担う子どもたちを飢えさせてまで、無謀な戦争へと突き進んでいく当時の大日本帝国の視野狭窄さ、そして純粋無垢なまでに飛行機に魅せられている二郎のある種の愚かさも提示しているのだ。

(文・市川ノン)

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