クィア版の『フルメタル・ジャケット』
人間と自然を等価に切り取る美的な視線
海兵隊訓練所が舞台の本作は、一言でいえば「LGBTQをテーマとした『フルメタルジャケット』」というところだろう。現に、作中の痛烈ないじめ描写は『フルメタル・ジャケット』(1987年)や『ハクソー・リッジ』(2017年)を連想させるものだ。
しかし、両者には決定的な違いがある。それは、本作が、おしゃれで現代的な映像を数多く世に送り出してきたA24の作品だということだ。
例えば水中訓練のシーンでは、フレンチが溺れた訓練生を救う様子を水中から捉えており、水面に差す光とフレンチのシルエットの対比がなんとも美しい。
また、最終試練では、朝焼けに浮かぶ有刺鉄線やアリの巣、暗闇の中に浮かぶ焚き火がインサートされる。本作では、こういった人間のドラマと自然を等価に見つめる美の視線があちこちに散りばめられているのだ。
また、ポスト・ロックの音楽グループとして名を馳せるアニマル・コレクティブの陶酔感を誘う楽曲も過酷な訓練に従事するフレンチの心情を表現しているとともに、本作のアートっぽさを高めている。
なお、米軍では、1994年に施行された同性愛公言禁止規定により、(DADT:Don’t ask, don’t tell)により、軍隊内で性的嗜好を尋ねず入隊を認めるのが原則となっている(同性愛公言禁止規定は2011年に撤廃)。
しかし、本作がブラットンの実体験に基づいていることから鑑みると、クィアに対する細かい差別は根強く残っているのだろう。