ブラットン監督の比類なき覚悟と使命感
クィアであることから、社会からのけ者扱いされていたと語る監督のブラットン。保守的なクリスチャンでシングルマザーであった母親からも彼の存在は受け入れがたいものだったという。しかし、ブラットンは、決して母親との関係の修復を諦めなかった。
「母親が僕のことを避けられないように映画監督となった」。インタビューでこのように語るブラットンははじめ、自身の過去の辛い出来事を癒すために本作を制作していたが、次第に同じ境遇にある人々を癒したいという気持ちに変わっていったという。
そして、こういったブラットンの想いに応えたのが、主演のポープだった。監督同様にクィアの黒人である彼は、インタビューで次のように答えている。
「同じ黒人でクィアのアーティストとして、監督を守ることが僕の使命だと感じた。監督は身を切る覚悟で挑んでいる、世の人々のために」。
A24は、これまで黒人の同性愛を描いた『ムーンライト』やアジア系アメリカ人が監督を務めた『フェアウェル』(2020年)など、ジェンダーとダイバーシティをテーマとした作品を多く世に放ってきた。
そういう意味では本作もまた、映画界に新風を巻き起こす作品になりうるのかもしれない。
(文・柴田悠)