異なる背景を持つ二人のロマンスを”化学反応”で美しく表現
マイノリティの伝統と自己実現、アイデンティティの模索といったテーマは、同じくディズニー&ピクサーの『私ときどきレッサーパンダ』(2022)も思い起こさせる。『マイ・エレメント』の脚本の一人、ブレンダ・シュエは、同作にもクリエイティブ・コンサルタントとして参加していた。
また、キャストに、Netflixの『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』(2020)で好評を得た中国系アメリカ人のリア・ルイスだけでなく、同じくNetflix配給で、アフリカ系の両親が営む料理店とソムリエの夢の間で葛藤する『ワインは期待と現実の味』(2020)のマムドゥ・アチーを起用したのは、テーマと連動したものだと言えるだろう。
本作は、アイデンティティと自己実現だけでなく、異なる背景や文化を持つ人々との交流も、ロマンスという形で、エレメントという設定を活かしつつ表現している。前述の通り、エンバーとウェイドは真逆の性格や価値観を持つだけでなく、水と火は互いに打ち消しあってしまうため、触れ合うこともままならない。これは、異なる人種間の恋愛の困難が反映されているのだろう。
なかなか触れ合えない二人の気持ちが通じ合う場面の、まさに”化学反応”は感動的だ。戸惑いつつも手を取り合うと、非定型なエレメントである二人は沸騰し、発光する。恋愛による変化をわかりやすく、なおかつ想像力豊かに表現したシーンだと言えるだろう。感情の変化とともに、エンバーは自らの将来と夢についても問い直すことになる。
本作は、伝統と自己実現、異なる人々との交流の大切さを、優しく、自由な発想で伝えている。
(文・島 晃一)