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クリストファー・ノーランの原点?映画『オッペンハイマー』のノーラン監督が初期に製作した短編映画の内容とは?

text by 編集部

クリストファー・ノーラン監督は、映画製作における芸術的技巧と、業界への貢献の両方において、同世代で最も影響力のある映画監督の一人であることは間違いない。最新作『オッペンハイマー』を含め、話題作を発表し続けるノーラン監督の原点となる初期作品を米Colliderを参考に紹介していく。

ノーラン映画の原点
短編作品の内容とは?

クリストファー・ノーラン監督
クリストファーノーラン監督Getty Images

映画『メメント』や、映画『インセプション』、映画『TENET テネット』など、ノーラン監督の作品発表は、その大規模な作品設定や、注目する人々の数などを考慮すると、もはやその季節や、年を代表するような大きなイベントである。

彼の映画監督としての才能は、長編映画デビュー作『フォロウィング』(1998)以来、注目を浴び続け、現在話題の映画『オッペンハイマー』では、R指定作品では異例となる世界総興収7億1800万ドル(約1044億円)を突破。今後の彼の動きに注目する熱狂的なファンを獲得している。

しかしそんな中、ノーラン監督のファン達の中でも大半がまだ一度も観たことがない、また今後公開される見込みも低い作品が存在するのはご存じだろうか。

イギリス・ロンドンで、大の映画ファンとして育ったノーランは、1968年にスタンリー・キューブリックの傑作『2001年宇宙の旅』を視聴。この作品がノーランの人生を変え、その後のキャリアに大きなインスピレーションを与えたと語る。

ノーランは、企業研修ビデオの制作からキャリアをスタート。プロの現場で培うスキルを生かし、最終的に長編映画を監督するために、自分の才能をアピールする短編映画のアイデアを練り始めた。

短編映画の製作は、映画作家が自らの名を広めるのに、大変素晴らしい方法だ。なぜなら、長編映画の長さでは、観客を惹きつけることが難しい、奇抜で極端なスタイルの作テクニックを試すことが可能となるからである。そのため、現在名の知れる映画監督でも、デビュー当時は、その才能を示す指標とするために短編映画から製作を始めることが多い。

1996年、ノーランは短編映画『Larceny(原題)』の脚本・監督・自主制作を手掛けた。本作は、ノーランが英文学を学んだUCL(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)の仲間の協力の元で、週末に撮影された。

モノクロのこの映画は、少人数のキャストとリソースで制作されたが、長年の共同制作者で、後に『フォロイング』の主演も務めたジェレミー・セオボルドは、本作が、当時彼が見ていた大学の短編映画のコンセプトの大半とは異なることに気づいたという。

その後、ノーランはケンブリッジ映画祭でデビューし、批評家の称賛を浴びた。しかし『Larceny(原題)』は、オンラインで公開されることはなく、ストーリー、テーマ、登場人物などの詳細は、ノーラン自身から明かされていない。なぜ本作が公開されなかったのかは不明だ。しかし、この作品がきっかけとなり、1997年ノーランはより広く知られることとなる短編映画『Doodlebug(原題)』を監督した。

映画『Doodlebug(原題)』は、彼のキャリアに共通する特徴を浮き彫りにするようなプロジェクトだった。物語は、小さな昆虫に執着する一人の男を中心に展開する。彼は自分の現実の本質に疑問を抱きながら、徐々に狂気へと駆り立てられていく。実は、登場する男は、「虫のようなもの」を追うが、実はそれは数秒先の男自身で、それを叩き潰した直後、今度はさらに大きな自分に叩き潰されるという少し陰湿とも言える内容の作品だ。

この作品内容は、後に発表する、映画『メメント』に共通するものを感じる。しかし『メメント』では、『Doodlebug(原題)』よりも複雑に絡んだ人間の感情や、狂気を取り入れ、さらに衝撃的な物語へと昇華している。ラストシーンの5分間は観客を釘付けにし、視聴が終了した後でも、強く脳裏に刻まれるような内容だ。

自身の思考に対する疑問、暴力のエスカレートといった本作のテーマは、ノーランが初期から関心を抱くテーマである。これらの初期の短編が、その後の彼の作品に、どんなインスピレーションを与え続けているか、ファンにとっては、非常に興味深いものになるだろう。

そんな映画『Doodlebug(原題)』は、日本語字幕は無いものの、配信サービスThe Criterion Channelで視聴可能となっている。

ノーランが制作した短編映画はどちらもノワールな雰囲気が漂う。現代的に進歩した技術よりも、古典的な技法にこだわりを持ち、視聴した後に、多くの疑問を残すなど、驚くような仕掛けが施されることの多いノーラン作品。その原点である映画『Larceny(原題)』にも同様に、衝撃的な展開が残されているかもしれない。映画『Larceny(原題)』を視聴できないのは非常に残念である。

現在、ノーラン監督の最新作である、映画『オッペンハイマー』は、驚異的な興行成績と批評家の絶賛を獲得しており、本作が今年の賞レースの最有力候補になることを示している。ハリウッドで起こる脚本家ストライキの影響を受け、年末の賞レースを争う可能性があった多くの大作が延期されたことを考慮すると、映画『オッペンハイマー』は、非常に高い評価を得ている数少ない作品の1つである。このまま事が進めば、あらゆる賞を総なめにする可能性が高い。

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