大人になって魅力に気づいた
“この世界のルール”を巧みに描いた傑作
『アメリカン・ヒストリーX』(1998年)
ーーー4本目の作品は『アメリカン・ヒストリーX』。ギャングの兄弟の悲劇を通して、アメリカの人種差別問題を描いた作品ですね。
「そうですね。ただ、この作品も私は社会問題を扱った作品というよりは、この世界のルールを描いた作品として見ていますね。
この作品では、兄が犯した罪のカタキが、弟に帰ってくるんですよね。『イット・フォローズ』に似ていますが、人の怨念とか復讐心って、復讐の相手ではなく、その人が大事にしている一番弱いものにバチって返ってくるんだなって。
代償が罪を犯した本人に返ってくるんだったらいいんですけど、自分が大事にしているものに返ってくるのはかなり辛い。そういう現実を、この映画はうまく描いていると思いました。
あと、海外に行くと未だにこの作中の雰囲気は残っているし、この映画が扱っているテーマって、大なり小なり自分の人生でも起こるんですよね。だから、すごく勉強になるなと」
ーーー魂を鍛える場なんですね。この映画は。
「そうですね。観ているときはそうは思わないんですけど、大人になって経験を重ねていくたびに、あまり他人事じゃなくなっていくというか、身につまされるところが多いですね。
それから、これは洋画あるあるけど、殺し方のパターンがえげつないですよね(笑)。「こんな殺し方あるんだ! 」みたいな。こういうバリエーションの豊富さは、邦画にはあまりないなと思いました」
ーーー確かに(笑)。そこはやはりクリエイターだったらフロンティア精神を発揮してほしいところですよね。登場人物の死をしっかり描くというのは、とても大切なことですよね。
「あと、この『アメリカン・ヒストリーX』では、最後に弟が黒人に殺されてしまうんですけど、洋画はラストが熱い映画が多いですよね。
私としては、映画はどれだけ観客をいろいろな感情にさせて、どれだけ伏線を回収するかがキモだと思っているので、この作品を選びました」