ロバート・デ・ニーロとジョディ・フォスターの視線の高さに注目〜配役の魅力〜
主役のトラヴィスを演じたのは、ニューヨークを舞台にした青春群像劇『ミーンストリート』(1973)に続く、マーティン・スコセッシとの2度目のタッグとなるロバート・デ・ニーロ。
前年に出演した『ゴッドファーザー PART II』では、若き日のドン・コルレオーネを演じ、アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。本作に出演するにあたり、数週間に渡って実際にタクシーの運転手をつとめるなど、徹底した役作りを敢行し、リアリティあふれる芝居を披露。ハリウッドを代表する演技派俳優としての地位を不動のものにした。
クライマックスの大殺戮シーンのインパクトがあまりにも強いため、派手なアクション映画であると見なされがちだが、落ち着いたトーンで物語は進み、主人公の狂気はゆったりと、静かに醸成されていく。そのため、デ・ニーロの演技は、受け身に徹するシチュエーションが多く、観客の視線を肩代わりするように、ニューヨークの街をタクシーで徘徊し、荒廃した雰囲気を鮮明に伝えてくれる。
未成年の娼婦・アイリスに扮したのは、撮影当時若干13歳のジョディ・フォスターである。こなれた様子でタバコを吸い、上目づかいでトラヴィスを誘惑する仕草は、危険な魅力に満ちている。トラヴィスは彼女をたしなめ、売春から足を洗うように説得。2人は友情を結ぶことになるのだが、それに伴い、2人の視線が「見下ろす/見上げる」上下の関係ではなく、フラットな位置関係に移行する点にも注目したい。
レストランでモーニングを食べながら会話をするシーンでは、テーブル越しに向かい合う2人の視線の高さはピッタリ合っており、アイリスは、真っ直ぐ目を見つめるトラヴィスに心を許したのか、売春部屋での大人びた表情は影をひそめ、年相応のあどけない笑顔を見せる。
このシーンの後には、アイリスと売春周旋屋であるスポーツ(ハーヴェイ・カイテル)との対話シーンが描かれる。スポーツはアイリスの前でひざまづいて同情を引いたかと思えば、立ち上がって見下ろし、胸に抱き寄せるなど、彼女の視線を上下に揺さぶることでコントロールしようとする。スポーツ演じるハーヴェイ・カイテルの芝居が、アイリスと水平な位置関係を保ち、誠実に向き合おうとするトラヴィスと対比をなしているのは言うまでもないだろう。
トラヴィスが思いを寄せる女性・ベッツィーに扮したのは、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の名作『ラストショー』で鮮烈なデビューを飾ったシビル・シェパード。初デートでポルノ映画館に誘われたことでトラヴィスを嫌悪し、彼の孤独を強めることに貢献する。ちなみに、ポルノ映画館の売店の女を演じたのは、デ・ニーロの元妻である女優のダイアン・アボットである。