巨匠・バーナード・ハーマンの生涯最後に手がけた珠玉の音楽
音楽を担当したバーナード・ハーマンは、『めまい』(1958)や『サイコ』(1960)をはじめとした、ヒッチコック監督作品、オーソン・ウェルズの名作『市民ケーン』の劇伴で知られる、映画音楽のレジェンド。1941年にはウィリアム・ディターレ監督作品『悪魔の金』でアカデミー賞最優秀作曲賞を受賞している。
映画産業が衰退しはじめた1970年代以降は、ヌーヴェル・ヴァーグを代表するフランス人監督、フランソワ・トリュフォーや、ヒッチコックの熱心なフォロワーであるブライアン・デ・パルマなど、新世代の監督とも積極的に組むことに。有望な若手監督の筆頭格であったマーティン・スコセッシと組んだ本作が、ハーマンの遺作となった。
サックスを中心に据えた、ジャズ調のメインテーマが印象的である。ロバート・デ・ニーロのもうろうとしたナレーションとアンサンブルを奏でることで、作品の混沌とした雰囲気を見事に表現している。
また、トラヴィスとアイリスが初めて出会うシーンでは、アイリスがトラヴィスの運転するタクシーに轢かれそうになる瞬間、哀愁ただようメインテーマは突然鳴り止み、ヒッチコック作品を彷彿とさせるショッキングな効果音が響く。映像展開にメリハリをもたらす、素晴らしいサウンドトラックの効果である。
主人公の妄想ともとれるクライマックスの殺戮シーンでは、迫力たっぷりのオーケストラに合わせ、ウィンドチャイムの音色のような、キラキラした効果音が被さり、神の視点を思わせる自由自在なカメラワークと合わさることで、独特の浮遊感を生み出している。
前衛的な音楽と伝統的な音楽を自由自在に組み合わせたサウンドトラックは創意に満ちており、作品の大きな魅力となっている。
《主な使用楽曲》
『Late For The Sky』ジャクソン・ブラウン
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