北朝鮮政府によるプロバガンダ教育の恐ろしさ
ソンウン牧師に率いられながら長い旅路を続ける家族の様子とともに描かれている北朝鮮の現実には驚愕させられる。まるでゴミのように打ち捨てられる餓死者、物心つく前から「アメリカ人は鬼畜」と教え込まれる子どもたち、さらに、金日成から金正日、金正恩と続く独裁世襲体制の下、人民に相互監視を推奨し、徹底して異分子を根絶やしにする恐怖政治を、一切の脚色なく暴いていく。
ロ一家は、中国を縦断し、ベトナム、ラオスを経由してタイに向かう。ベトナムのジャングルを通ってラオスへと渡る命懸けの越境、道なき道を行き、体を傷だらけにしながら突き進む様は、子どもや老人にとってはあまりにも酷な状況だが、なぜそこまでの移動を強いられたのか。
それは中国、ベトナム、ラオスは北朝鮮の友好国であり、脱北者と知られたら、拘束され、強制送還された挙げ句、その先に待つのは強制収容所での「死」のみであるからだ。物語の中で、ソンウン牧師の妻も登場し、夫婦の馴れ初めを語るなど、仲睦まじい姿を見せるのだが、実のところ、夫婦には想像を絶する不幸な過去があり、その出来事によって、ソンウン牧師が自らの身の危険を犯してまで人道的活動を続けるモチベーションに転化させていくことが分かる。
脱北支援者達が用意したタイとの国境近くにあるラオスの“安全な家”に身を潜めるロ一家。ここで撮影クルーが一家にインタビューする。
子どもの両親は、金正恩の圧政を批判する一方で、2人の子ども、そして母である老女は「我が指導者、金正恩同志は偉大な人です」と語るのだ。物理的には北朝鮮を離れたものの、その頭の中には変化が見られず、思わず娘が「お母さん嘘を吐かないで!本当のことを話して!」とたしなめられる。ここに、北朝鮮政府による長年のプロバガンダ教育の恐ろしさを見て取れる。