ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 続出する餓死者、徹底した反米教育…想像を超える北朝鮮のリアルとは? 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』考察レビュー&評価  » Page 4

2023年のベストドキュメンタリーの呼び声も

©TGW7N, LLC 2023
©TGW7N LLC 2023

ロ一家の脱北も大詰めを迎える。深夜のメコン川を渡ればタイに入国できる。タイであれば、強制送還の危険は消える。しかし、ブローカーが用意したボートは、少しでもバランスを崩せば転覆のリスクが高く、そのルートは麻薬密売にも使われるため、国境警備が厳しい。仮に捕まれば、それまでの苦労は水泡に帰す。それでもロ一家にとって、選択肢は1つしか用意されていない。何も見えない闇夜に、一家全員がボートにすし詰め状態で乗り込み、ついにタイの地に降り立つ。

場面は変わり、一家はコロナ禍のソウルのアパートにいた。もし、一家が脱北する決断がわずかにでも遅かったら、パンデミックによる国境封鎖が進み、ソンウン牧師の計画も白紙となるところだった。そう考えれば、ソンウン牧師とロ一家の例は、幸運続きであったと考えられる。その裏では、脱北に失敗し、無残に殺された多くの命があったことを、我々は忘れてはならないだろう。

楽園(ユートピア)はどこにあるのか…。そもそも、何をもって「楽園」とするのか…。鑑賞者に強く問いかける本作は、2023年のサンダンス映画祭で圧倒的な支持を得てUSドキュメンタリー部門観客賞を受賞。全米批評家サイトRotten Tomatoesのメーターは100%と圧倒的な高評価を記録し、米国の映画メディアや評論家の間では2023年のベストドキュメンタリーの呼び声が高い。

北朝鮮の隣国である我が国においても、この問題を他山の石と見過ごすことはできないだろう。奇しくも、世界の情勢が不安定となる流れに乗じるように、北朝鮮は中国、ロシアとの結束を強めている。今後、日米韓に対し、さらなる挑発を仕掛けてくるかも知れない。そうなれば、拉致問題の解決など夢のまた夢となってしまう可能性が高い。

1 2 3 4 5 6
error: Content is protected !!