隣国に思いを馳せる
本作が持つ意義は、我が国と米国では微妙に異なるとも感じる。米国人にとっては、遠く離れたアジアの小国での話であり、まずは「こんな状態で、なぜ国民は蜂起しないのか?」という感想を抱くだろう。片や我が国では、ある程度、北朝鮮がどんな国なのかを理解している。その上で本作を見れば、「あぁ、やっぱり…」という感情と、「想像以上に悲惨だ」という印象が同時に沸き上がる。
本作はアメリカ映画だ。しかし、アメリカからの視点で描かれてはいない。淡々と事実のみを並べることで、全世界から「北朝鮮」という国と「金一族による世襲・独裁政権」の異常性を詳らかにする試みだ。
残念ながら、この作品が公開されたところで、北朝鮮に住む人々が目にすることはできない。しかし、あまりの圧政に苦しみ、思い入れのある生まれ故郷を捨て、命を賭して国を脱出する人が絶えない北朝鮮という国がある事実を世界中に知らしめることはできる。そういう意味では、一切の演出を排したギャビン監督の意図も理解できるのだ。
(寺島武志)
【作品概要】
監督・編集:マドレーヌ・ギャビン
原題:Beyond Utopia
配給:トランスフォーマー
©TGW7N, LLC 2023
2023年製作/115分/G/アメリカ
劇場公開日:2024年1月12日
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