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「タイトルに込めたのは“生きる”ということ」映画『すべて、至るところにある』リム・カーワイ監督&主演・尚玄インタビュー

text by 山田剛志

大阪を拠点に国境と言葉を越えて映画を撮り続けるマレーシア出身の映画監督リム・カーワイの『すべて、至るところにある』が1月27日から公開される。『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』に続き制作された本作は、バルカン半島3部作の完結編で、リム自身の分身のような映画監督ジェイが主役の物語だ。今回は、リム監督と、ジェイ役を演じる尚玄に、2人の出会いから撮影の舞台裏までうかがった。(取材・文:山田剛志)

リム・カーワイと尚玄の出会い

撮影:武馬怜子
撮影武馬怜子

―――まず、リム監督と尚玄さんの出会いから伺えますでしょうか。

リム「尚玄さんと初めて出会ったのは2018年の東京国際映画祭のパーティですね。共通の知り合いから紹介されたんですが、なぜか英語を話していたんですよ。それが驚くほど流暢な英語だったので、最初はアメリカかハワイの人だと思っていました。話していくうちに日本人だということが分かって、強烈に印象に残りました」

尚玄「僕の初対面の印象は、日本語がとても上手な方だな、と。で、池袋のシネマ・ロサに『どこでもない、ここにしかない』(2018)を観に行ったんですが、とても面白くて、台本もない即興劇でこういう映画を撮れるんだ、と少しびっくりしました。

で、その後『COME & GO カム・アンド・ゴー』(2021)のオーディションに参加して、役をいただいたのが最初に仕事をするきっかけですね」

リム「その時のオーディションはいまだに覚えていますね。尚玄さんの役はもともとピンク映画の監督だったんですが、演技がとても良くて絶対使いたいと。で、尚玄さんに併せて沖縄出身という設定を新たに加えました」

尚玄「劇中では三線を弾いているんですが、三線はだいぶご無沙汰だったんですよ。急に言われても困るなあと思ってたんですが、『(ロケ地がある)大阪にいる間に練習したらいいよ』ってわざわざ用意してくれて、猛練習しました」

―――リム組の洗礼を受けられたのですね。

尚玄「そうですね(笑)。しっかり受けました」

―――今回の企画は元々2020年にクランクインを予定していたとうかがいました。

リム「そうですね。ただ、元々撮ろうとしていた物語は今の内容とまるで違っていて、バルカン半島の映画祭に招待された映画監督がトラブルに巻き込まれて麻薬をイスタンブールに運びに行くというロードムービーでした。ちなみに、主演は映画監督の渡辺紘文さんにお願いする予定でした」

尚玄「それはそれで面白そうですね(笑)」

リム「2022年にクランクイン予定だったんですが、まだコロナ禍の影響が強かったので、日本に舞台を変えて一新して、新たに『あなたの微笑み』(2022)という映画を撮りました。

ちなみに映画監督を主人公にした三部作というアイディアはこの作品を撮る以前にすでにありましたね」

―――尚玄さんは、『COME & GO カム・アンド・ゴー」と『あなたの微笑み』(2022)の2作品に出演していますが、本作にはどういった経緯でキャスティングされたのでしょうか。

リム「実は当初、尚玄さんは出る予定ではなくて、エヴァ役のアデラさんを主演にバルカン半島三部作を撮る予定でした。

また、映画監督というアイデアも『あなたの微笑み』(2022)と被るので、別のアイデアを使おうと思っていたんですが、ロケハン中に尚玄さんがちょうどスケジュールが空いていると言ってくれたので、バルカン半島まで来てもらうことになりました。

で、尚玄さんには映画監督を演じてもらい、アデラさんが尚玄さんを探すという今の脚本に落ち着きました」

―――では、最初から完成された台本があったわけではなく、準備や撮影を進めながら今の作品の骨格が出来上がったということですね。

尚玄「そうですね。ただ、僕が行った時は映画監督という役柄は決まっていたんですが、シネマドリフター(映画流れ者)という設定はありませんでした」

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